奥村聡(事業承継デザイナー)
NHKスペシャルで「会社のおくりびと」として取り上げられた奥村聡が現場で培った経験を元に話します

廃業相談:仕入れ先の廃業と社長の孤独


関東の部品製造会社K社の社長さんからの相談である。

社長は『廃業』を希望している。



顧客は、大手の上場企業一社。

それ以外の顧客はいない。

海外輸出向けの商品の部品を提供している。

長く取引があり、信頼関係もある。

従業員は6名である。

妻は経理をやっていて、後継者候補となる子供などは社内にいない。

廃業しようと思った経緯

主に部材の仕入先として2社と取引をしているところ、その主たる会社から廃業の意向が伝えられた。

先方の社長が高齢(70代半ば)となり、加えてコロナ禍による生産の減少による資金繰りが悪化した。

この2点の理由から、廃業したいと決めたそうだ。


同社から部材の供給が受けられなくなると、K社も事業が継続できなくなってしまう。

ちなみに仕入れ先の別のもう一社の場合、小ロット注文や短期納品の対応をしてくれない。

また、そちらも現場は高齢化しているため、近い将来同じような問題が起きそうだ。


主たる仕入れ先とは、もう少し事業を続けてもらえるようどうにか約束を取り付けた。

しかし、近隣で同様の取引をしてくれる相手を見つけることは困難だ。

「いっそ、このタイミングで自社も廃業したい」

K社社長の意向であった。


事業継続を提案してみると・・・

社長の懸念は、廃業をするについての社員や顧客への対応方法であった。

説明の仕方や順番などある。


なるほど、すでに廃業の意思決定を前提としていたわけだ。

ただ私からは、「本当にそれでいいのか、もう一度考えてみませんか」と提案させてもらった。



まず、廃業をすると決まったならば、その後のことは必ずどうにかできると伝えた。

これは会社の財務状況等をヒアリングした結果であり、私の経験と勘からして太鼓判を押せる。

「具体的なやり方はまたその時協議しましょう」と、廃業の方法論については一旦脇に置かせていただいた。


会社は利益も出ていて財務内容もよい。

また、廃業の意向を伝えてきた仕入先も、こちらの状況が決まるまで部材の提供を続けてくれると約束してくれている。

まだチャンスはある。


たとえば、やめたいと言っている仕入先の従業員や設備を引き継いで、顧客への部品供給を継続できるようにすることができるかもしれない。

もし、自分でやる気がない場合でも、M&A等で事業を続ける方向を模索できたらいいのではないか、と考えた。

やめることはいつでもできるが、既存の事業をみすみす終わらせるのはもったいない気がする。



このような話を私からさせてもらった。

社長の反応は、そうだよなぁ、と同意する反面、もうひとつ乗り気になれないところもあるようだ。


そもそも事業に対する熱意が枯渇している様子であった。


「自分で会社をはじめたわけじゃないし、流れで社長になったという感じだった。もうそろそろいいかな、というのが正直でもあります」


社員の高齢化、設備の老朽化、顧客からの要求の厳しさや高度化、コンプライアンス順守……など、事業を続ける難しさは年々高くなっている。

「いろんなことを要求されるけれど、一緒に戦ってくれる人がいないんだ・・・」

社長の孤独と疲労を感じた。


ひとまず、今回の相談では結論を保留し、「もう一度廃業するか否かの基本方針の検討をしてみます」ということで終えた。

プロフィール

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は850社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられたコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
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