奥村聡(事業承継デザイナー)
NHKスペシャルで「会社のおくりびと」として取り上げられた奥村聡が現場で培った経験を元に話します

株式移転でホールディングカンパニーを作る

✓持ち株会社を作ってグループ内を整理したい

✓ゆるく他社を統合したい

こんなときは『株式移転』が役立つかもしれません。

 

株式移転とは?

株式移転は「1または2以上の株式会社がその発行済み株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させる」組織再編行為です。

一度読んだだけではよくわからないかもしれませんが、ホールディングカンパニー(持ち株会社)を作る制度だと思ってください。

なお、子会社も設立される持ち株会社も、株式会社でなければいけません。

株式移転という言葉は、М&Aなどで株式を相手に譲り渡す場合にも使います。

しかしここでいう株式移転とは意味が異なりますので、混乱なさいませんようにお願いします。

 

株式移転のイメージ

次の図を使って説明します。

 

株式会社大阪社には株主がいます。

持ち株会社を作り、この大阪社の株式を持たせたいとしましょう。

そんなとき株式移転を使えば、一発で持ち株会社(神戸社)が誕生します。

以後は、株主と大阪社の間に割って入るような感じで、神戸社が存在しすることになります。

株主視点で見れば、今まで持っていた大阪社の株式が神戸社の株式に代わります。

大阪社視点では、株主が神戸社に代わります。

ただし、大阪社の資産や負債などについては一切変化がないことを押さえておいてください。

 

2社以上で株式移転を共同することもできる

株式移転は同時に2社以上の会社と共同で行うこともできます。

 

たとえば、大阪社と京都社の間で共同株式移転を実行し、持ち株会社として神戸社を設立するような場合です。

持ち株会社の神戸社は設立されましたが、株式移転時は資産として大阪社と京都社の株式しか持っていません。

他の資産や負債は子会社たる大阪社と神戸社にそのまま残されているのです。

 

会社分割よりも簡単に持ち株会社がつくれる

会社分割でも持ち株会社を作ることができます。

ただし、株式移転とは逆方向の動きをします。

株式移転ならば子会社の立場から親会社を作ります。

逆に会社分割では、子会社を生み出すことになるのです。

会社分割ならば、何を子会社に持ち出し、何を親会社に残しておくのかを取捨選択できます。

一方の株式移転では、原則として資産等を親会社に持っていかせることができません。

その反面、株式移転ならば資産や負債の承継に関する手続きや配慮が不要です。

また債権者保護手続きや労働者保護手続も原則不要です。

持ち株会社を作るという一点においては、株式移転の方が簡便に実現できるのです。

 

株式移転でこんなメリットを!

株式移転はどんな場面で活躍し、どんなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。

ホールディングカンパニーのメリットが受けられる

世の中にはわざわざ持ち株会社を設立している企業グループがあります。

これらの会社は何をねらっているのでしょうか。

スピードアップと効率化

ひとつに、経営のスピードアップと効率化を狙っている場合があります。

たとえば、各事業ごとに別々の会社にすればそれだけ意思決定などが早まります。

持株会社がグループ全体の方針を担う一方で、実務面での細かな部分は各子会社の権限で決定していければスピードを手にできます。

権限と責任の範囲を分かりやすくすることもできます。

持ち株会社が、資金調達や採用などをまとめて担当すればスケールメリットを活かすこともできるでしょう。

 

リスク分散

他の事業で起こした損害であろうが、同じ会社でやっていたら他の事業にも責任が生じます。

しかし、それぞれを別の会社にしておけば、責任の範囲はより限定されます。

持ち株会社が中心となって子会社をぶら下げておくかたちにすれば、М&Aで個別に売却することも容易になるでしょう。

 

会社ごとに差をつけたい

業績の良い事業とそうでない事業があったとすれば、そこに従事するスタッフの待遇等に差をつけたくなるかもしれません。

業績が良い事業のスタッフの給与や多くしてあげたいところでしょう。

しかし、同じ会社内ではなかなか待遇面の差などをつけづらいところです。

持ち株会社化することで、こんなニーズにも応えやすくなります。

 

デメリットも考慮しておくこと

ホールディングカンパニーのメリットをお話しましたが、当然マイナス要素もあります。

単純に会社が増えればそれだけ管理コストが増加しやすくなってしまいます。

また子会社各社の統制が取れなくなってしまうリスクもあるでしょう。

持ち株会社を上手く運営するためには、機能するための仕組みも作らなければいけません。

 

M&A後の統合による軋轢を回避する

М&Aではこれまで合併がよく使われてきました。

しかし、合併で無理やり一つの会社にすると社内で軋轢が生じてしまう場合があります。

「どちらの会社の出身か」による派閥のようなものが生まれてしまったり、と。

そこで、完全なる同化は避け、グループ内の別会社という立ち位置で各社を存続させる手も考えられます。

たとえば、先述した共同株式移転を使えば、各事業会社の上に持ち株会社を設立することができます。

ブループ全体としての方針をこの持ち株会社が指示し、それ以外は独立して事業を行えばよけいな衝突を回避できるでしょう。

 

事業承継の時にも

株式移転は事業承継のときにも利用できそうです。

たとえば、相続による株式の分散は本来避けたいところです。

税金を減らす目的や遺留分の問題で、株式を後継者以外の相続人にも分散させたい場合があります。

一方で、株式を分散させるとそれだけ法律的なリスクが高まります。

そんなときでも株式移転により持ち株会社を作り、その株式を分散させるならば話としてはましになるでしょう。

事業会社の株式を他の相続にんに持たれているわけではないためです。

 

また株式移転は、使い方によっては、事業承継に係る相続税を減らす取り組みにもつかえることがあるようです。

あまりに細かな話になるので、ご興味ある方は税理士さんに問い合わせてみてください。

プロフィール

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は850社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられたコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
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