奥村聡(事業承継デザイナー)
NHKスペシャルで「会社のおくりびと」として取り上げられた奥村聡が現場で培った経験を元に話します

株式売買・株式譲渡で経営の支配権を移す

株式と会社の支配権のお話

会社は誰のものでしょうか?

いろんな考え方があるとは思いますが、法律上の話であれば株主のものです。

株式を持つ株主が会社のオーナーです。

その株主が複数名いる場合は、その議決権の割合によって会社を所有することになるのです。

代表取締役なども、あくまで株主から会社運営について依頼された代理人的な立場でしかありません。

 

会社の支配権を移転するなら

株主が有する会社の支配権を他者に譲りたいときがあります。

たとえば、持っている株式を換金したい。

М&Aで他者に会社を買ってもらいたい。

事業承継で、後継者に会社を譲りたい。

こんな場合です。

会社の支配権を移転する一番簡単な方法が、ここでお話する株式を譲渡することです。

なお、会社再編行為のひとつに「株式移転」というものがあるので、紛らわしくなっています。

こちらは株式の売買など、株式を取引の対象する行為のお話です。

 

会社を欲しい人が、現株主から株式を買い取ります。

それだけで会社の支配権は移るのです。

なお、株式の保持者が変わっただけでは、会社は何も変わりません。

社名や本店所在地、役員の構成はどはそのままです。

登記簿には株主の表記はそもそもないので、登記内容も変わりません。

株式数や資本金も、すでに発行されている株式の保持者が変わるだけなので同じままです。

もし何かを変えたいのならば、株主として議決権を行使して変更していくことになります。

 

株式の値段はどうするの?

株式を第三者に移転する際、一番の関心事はその価格かもしれません。

「いくらで売れば(買えば)いいですか」とよく質問を受けるときもあります。

株式はいくらで売ってもいい。

これが結論です。

場合によっては、無料で贈与することだってできます。

上場企業のように市場があり、相場が決まっているものもたしかにあります。

でも、これは例外です。

自由取引の原則にのっとり、会社の株式だっていくらで売買してもいいのです。

売り手と買い手の双方が合意さえすれば、それで取引は成立します。

 

ここで税金の話についても触れておきます。

株式の売買価格は自由に決められます。

しかし、その価格によっては税金の問題となる場合があります。

たとえば5000万円の価値がある株式を、ただで贈与したとしたら・・・

贈与税の問題が生じたりするのです。

株式の譲渡や売買は税金も視野に入れて行わなければ、痛い目にあうことがあります。

ただし、あくまで取引内容は自由。

こちらが原則です。

税金は従たる話にすぎません。

主従がおかしくなると話がこじれてしまうことがあります。

 

株式価格算定の方法

いくらで売買してもいいということは、ご理解いただいたと思います。

しかし、それでは「いくらで売っていいのか見当もつかない」となってしまう方もいらっしゃるでしょう。

そこで、よくある価格の計算方法についてご紹介します。

 

まず「純資産」に注目する計算方法です。

会社の中には資産と負債があります。

これを差引したものが純資産です。

資産が8000万円で、負債が6000万円ならば、単純計算で2000万円となります。

この2000万円を株式の価格とする場合があります。

 

資産と負債については、本来ならば時価に引き直して考えるほうが正しいのでしょう。

また、帳簿に載っていない資産や負債があれば、それも加味するほうが現実の姿をより正確に反映することになります。

 

「資本金は関係ないのか?」と気になった方もいらっしゃるかもしれません。

ここでは資本金のことは無視していただいて大丈夫です。

資本金は会社をはじめたときの元手にすぎません。

その後の営業活動で利益が溜まっていれば、純資産は資本金よりも上回ります。

逆に赤字を出せば、当初の資本金よりも純資産が減ってしまっていることもあります。

現状での純資産額こそが会社の資産的な価値となるのです。

 

純資産のお話をしましたが、実は、これだけでは会社の価値を評価しきれていません。

単純な資産と負債の積み重ねが、会社の評価となると違和感がありませんか。

たとえば、資産は少なくても、毎年莫大な利益を生み出す会社があったとします。

これを純資産だけで考えたら、過小な評価となってしまいます。

そこで「利益面」に注目した評価方法もあるのです。

 

こちらの方では、毎年稼ぎ出すであろう予想利益を割り出し、任意の年数を掛け合わせて評価したりします。

たとえば、毎年1000万円の利益を生み出す会社があったとします。

業界の動向や会社の様子を見て「安定しているからその5年分を評価としよう」という具合だったりします。
(=利益を稼ぎ出す装置として5000万円で評価)

先行きが見えない業界などでは、この年数が短く評価されるのです。

 

以上のように、資産的な面と利益的な面を組み合わせて、株式を評価する場合がおおいでしょう。

 

株式譲渡・株式売買の手続

株式譲渡・売買の手続を見て行きましょう。

単なる株式の売買といえばそのとおりです。

ただ、それなりに関連する手続きがあります。

なお、株式譲渡に関する登記変更は必要ありません。

 

特に注意すべきは、株式の譲渡制限です。

多くの会社では株式の他者への譲渡につき、会社サイドの承認が必要となっています。

これは、会社にふさわしくない人間に株式が渡ってしまうことを防止する目的で設置されています。

 

【モデルケース】

売主と買主の間で株式の譲渡を決定

株式譲渡人(前株主)から会社に対して株式譲渡承認の請求

取締役による臨時株主総会の開催決定

各株主へ臨時株主総会の招集通知

臨時株主総会で株式譲渡について承認

株式譲渡人に対して株式譲渡を承認した旨を通知

株式譲渡人と譲受人の間で株式譲渡契約の締結

会社に対して株主名簿書き換え請求

会社が株主名簿を書き換え

 

かつては、株式の譲渡の証として株券が交付されました。

株券を持っている者が株主とみなされたのです。

しかし、現在の中小企業は株券を発行していない会社ばかりです。

そこで、株式の保持者の変更は、会社に備えられた「株主名簿」の書き換えによって行われます。

 

 

株式譲渡に関わる税金

お金が動けば、税金の問題が生じるものです。

株式の譲渡についても、税金のことを意識しておくべきでしょう。

 

まず株式の売り手の税金を考えてみます。

株式を売却することで利益を得たならば、課税の対象となります。

売り手が個人たっだならば、を株式売却で得た利益の20%(国税15%、地方税5%)の譲渡所得税がかかります。

あくまで儲けた分に対しての課税です。

500万円で買った株式を800万で売ったならば、300万円が売却益です。

そこが課税対象となります。

 

分離課税とされるため、給与所得などの他の所得と区分して税額が算出されます。

 

一方、売り手が会社だったらどうでしょうか。

こちらは、株式の売却で利益が出たとしても、他の利益や損失と合算されて税金の計算がなされます。

もし会社が所持する株式を売却すると大きな売却益が発生するならば、業績が悪い年に売却すれば、節税になるのでしょうね。

 

買い手についても考えてみましょう。

買い手については、基本的に税金はかかりません。

ただし、ひどく時価とかけ離れた金額で売買されたようなケースでは、税務上の問題が生じることもあるようです。

いずれにしても、税理士さんにも確認しつつ、株式の売買は行ったほうがいいですね。

 

《著書のお知らせ》
社長のおわりのバイブルを出版しました

社長、会社を継がせますか?廃業しますか?

どの社長にも、社長をやめる時がきます。

廃業であれ事業継承であれ、M&Aであれ。

さらには社長の相続発生や会社倒産というおわり方もあります。

『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』(翔泳社)では、これまで誰に相談してよいか分からなかった『社長のおわり』の全体像を体系化ししました。

あたかも社長のおわりの場面の地図とも言えるでしょう。

全体像が見えて、はじめて有効な作戦が立てられます。

是非、手に取ってください。

 

プロフィール

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は850社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられたコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
興味いただけた方は、リンク先もお読みください。