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事業継承ってそもそも何? 方法と進め方、ポイントを場数豊富な専門家がレクチャー

こんにちは、事業承継デザイナーの奥村です。

事業継承(または事業承継)に関する話題については、少々違和感があるところです。

現場や実態とかけ離れた表面的かつ形式的な議論ばかりであったり、仕事を取りたい業者によるポジショントークであったり。

いくつもの現場に踏み込んできた経験から、事業継承の実態とポイント、進め方を語ります。

目次

そもそも、事業継承(事業承継)とは何か?

『事業継承』という言葉を聞く機会は、昔よりもずっと増えてたはずです。

簡単に言えば「会社を誰かに引き継がせること」ですが、人によってその定義は異なっているようです。


実際、事業継承という言葉は会社法等で定義されているわけではありません。

まず、この記事内における『事業継承』という言葉を定義しておきます。

(細かい話はどうでもいいという方は読み飛ばしてください)


事業承継と事業譲渡との比較

事業継承と似た言葉に『事業承継』や『事業譲渡』があります。

このうち事業継承と「事業承継」は、同じ意味だと考えていいでしょう。

継承と承継で漢字の順番が違うだけです。

傾向としては、事業継承は現場の方がよく使う言葉です。

中小企業の社長さんなどが、「奥村さん、うちの事業継承の件だけどさぁ・・・」なんて感じで使うケースが多いところでしょう。

一方の事業承継は、比較的専門家や学者、役人などのいわゆる「固い人」が使います。

事業継承と「事業譲渡」となると、明らかに違う意味の言葉です。

事業継承が会社全体の話ならば、事業譲渡は会社の一部分の話です。

会社が有している、資産や負債、顧客や技術、そして人材などを任意で会社から切り取り、その部分を他者と売買することが事業譲渡の意味合いです。

なお、事業継承の取り組みの一手法として、事業譲渡を活用することもあります。

事業継承の範囲

事業継承には狭義の事業継承と、広義の事業継承があると考えています。

前者の狭い意味での事業継承は、社内の身内に会社を継がせる場面を指します。

血のつながった社長の子供などへの継承がその代表例ですが、血のつながっていない従業員への継承も含まれることが多いでしょう。

社内継承という表現をされることもあります。


広義の事業継承になると、外部の他者への会社の継承も含まれてきます。

例えば、外部から経営人材を招聘する場面であったり。

中小企業でも最近盛り上がっている他社への売却(M&A)も入ってきます。

この記事では、広義の意味での事業継承を取り扱います。

社長は「会社を誰に継がせるか?」です。

各継承の方法(ルート)については、後ほど詳しくコメントします。


事業継承の何が問題なの?

「事業承継問題」や「大廃業時代」なんてニュースの見出しを目にしたことがあるかもしれません。

近年、事業継承が社会的にも注目され、問題視もされています。

統計上は多くの会社に後継者がいません。

社長の平均年齢は60歳を超えています。

実際に、後継者不在を理由として廃業している会社もあります。

「このままでは地域経済が崩壊する」

「日本の技術が喪失してしまう」

「雇用の場をどうするのだ!」

日本の会社の99%は中小企業だというデータも引っ張ってきて、メディア等がこう騒ぎ立てている状況です。

行政はあわてて様々な手を打っています。


でも、読者の社長さんをはじめとした現場の私たちは、一緒になって浮き立つ必要はありません。

そもそもメディア等の外野は問題をより大きく伝えようとするものです。

後継者がいないのは、構造的な問題です。

人の価値観が変わったし、子供の数だって減っています。

事業継承の対象となる会社に目を向ければ、継がせることが難しい状況のところばかりだったりします。

なのに、補助金などを投入すれば何とかなると考えることは無理があるのです。

しょせん現場のことを知らなければ、経営の現場に対して責任を負わない人たちの言うことです。

私たちは淡々と自社にできること、自社がやることをやりましょう。


「事業継承3点セット」が象徴する取り組むべき中身は?

「早期から事業継承を進めろ」とか、「円滑な事業承継のために備えよ」なんて語られますが、実際には何をすればいいのでしょうか。

事業継承の取り組みの中身を考えてみます。

「代表印、決算書、株式が事業継承3点セットです」と、この記事を書いているの奥村はよくレクチャーします。

これらは取り組むべき方向のシンボルです。

①「代表印」=社長として振舞えるか?

まず『代表印』。

こちらは後継者が社長として振舞えるようになることを表します。

形式的には、後継者が代表取締役となり、法務局に印鑑を登録して代表印を押せるようになっていることです。

役員決議など、代表取締役として登記されるための道筋に支障がないかチェックしなければいけません。


もう一つの意味はソフト面での代表者です。

リーダーシップと言ってもいいでしょう。

従業員や顧客などから、後継者が新たな社長として認めてられるかどうかです。

事業のビジョンを頭の中に描き、それを全社で実行できるかです。

リーダーシップは登記をしたからと言って、必ずしも伴うわけではありません。

特に、社内にいるベテランや古参が、後継者にとって目の上のたんこぶになるケースはよくあります。

いかにすれば後継者がリーダーシップを発揮できるようになるかも、準備段階から検討しなければいけません。

社内承継を想定して話をしましたが、外部への継承でも『代表印』の引継ぎの概念は大切です。

たとえば、M&Aが成立するポイントとして、「先代社長がいなくなっても会社の仕事が回るか?」があります。

買い手としては、「会社を買ったものの、顧客や仕事が先代社長に付いているため引き継げない」という事態になっては目も当てられません。

外の人間や会社への事業継承でも、形式だけでなく、ソフト面の事業の引継ぎまで可能にしておかなければいけないのです。

②「決算書」=会社の実態を知らせ、資源を引き継ぐ

続いて『決算書』です。

シンボルとしての「決算書」が表現するものの中には、もちろん会社の数字があります。

売上や経費、さらには近年の動向など、後継者が会社の中身数字を押さえておかなければ、会社を引継いだ時に困ります。

ところが、決算書には様々な数字が載っています。

「正直、人には見せたくない」という社長もいらっしゃるでしょう。

会社で公私混同をしているとそうなりがちです。

決算書の数字などは、後継者に見せてあげないと準備が先に進めません。

M&Aで第三者に売ろうとする場合はなおさらです。


「決算書」に込めた意味は数字だけではありません。

技術や経営ノウハウや、顧客や外注、仕入れ先等との関係性、情報や許認可等も含みます。

無形資産と言ったり、経営資源と言われるものです。

強み、と表現しても間違っていないでしょう。

これらも事業継承のときに先代から後継者に引き継ぐべきものです。

目には見えないものですし、継承できたのか分かりにくいものです。

それゆえ、より意識的に引継ぎに取り組むべき対象だったりします。


②「株式」=オーナーとしての財産的価値の引継ぎ

最後に『株式』です。

ここまでの2つは、利益を生み出すための会社のソフト面にフォーカスしていました。

しかし会社にはもう一方の機能として、財産的な側面があります。

そを象徴しているのが3つ目の「株式」です。


会社という法人が、お金や不動産などの資産を保有します。

また、会社は単なる資産の集まりではなく、それらを使って利益を生み出します。

これらの資産的な価値と、利益を生み出す価値が、株式に反映され、財産的な価値を持つことになるのです。


この財産としての株式の継承にも取り組まなければいけません。

優良な会社であれば、株式の価値は高くなります。

贈与するにせよ、相続するにせよ、多額の税金を課される場合があります。

もちろんできるだけ税金を払いたくないというのは本音でしょう。

そのために、あれやこれやと手を考えます。

税理士にとっての事業継承とは、この取り組みのことだったりします。


株式の継承については、税金の問題のみならず、「ちゃんと後継者に株式を渡せるのか」という点もテーマになり得ます。

ある一定数以上の割合の株式を保有していなければ、社長であっても立場は安定しません。

株主総会で解任されれば終わりなのですから、むしろ普通の従業員よりもずっと立ち場が弱いのです。

安心して経営に打ち込むためには、株式の保有割合を高いところに保っておかなければいけません。

しかし、株式を多く占めるためには、多額の買取資金が必要になるケースもあります。

なかなか頭が痛いところです。



節税対策として株式をばらけさせたなどの理由で、株主が複数存在している会社もあります。

しかしたった1株であれ、株主は会社法に定められた権利を持ちます。

外部に流れた株式が面倒な問題につながるケースもよくあります。

潜在的なリスクに気を配り、対策を打っていただきたいところです。

M&Aを考えるならば、なおさら分散株式の問題は解消しておくべきでしょう。

中小企業のM&Aでは、買い手が、すべての株式を買えることを条件とするケースがほとんどではないでしょうか。

どこのだれだか分からない株主が存在することで生じるリスクは負いたくありません。


株式のテーマでは、株式の移転のときの税金がどうなるのか。

しかるべき相手にしっかり株式を継承できるかという点を確認してください。

必要に応じて、遺言や税務の特例などのツールを使うことになります。


事業継承の方法(各継承ルート)を検討する

ここまでは、やや前提としての話でした。

ここから徐々に「具体的にどうしたらいいか」を述べていきます。

当記事では広義の事業継承を取り扱うという話は、すでにさせていただきました。

まず、どんな事業継承の方法(継承ルート)があるのかを見ていきます。

まず社内継承(A)か、社外継承(B)かの大きく2つに分かれます。

そして、社内継承(A)の中でも子供などの親族内継承(A-①)か、従業員を代表とする親族外継承(A-②)かに分かれます。


過去のスタンダードは社内継承(A)で、その中でも親族内継承(A-①)でした。

しかし社会環境の変化とともに、親族外継承(A-②)や社外継承(B)が増えています。

肌感覚としては、社内&親族内継承(A-①)の割合が一番少なくなっているような気すらします。

なお、統計やアンケートの結果とは異なるかもしれませんが、これらが現場の実態と異なる結果を表すケースは案外多いと感じます。


親族内継承とは?(A-①)

社長の子供への継承が「親族内継承」の代表的イメージです。

他には、社長である夫が死亡したため、その配偶者が継承するようなケースもあります。

会社を継がせるために養子にした子や、娘の夫、つまり婿養子への継承などもこちらに含まれます。

社長の甥っ子や姪っ子といった範囲も、親族内継承となります。

ただし、社長との関係が遠くなるので、かなり親族外継承(A-②)の色合いが出てきそうな気がします。



かつては、社長の子供が会社を継ぐのが当然で、子供が社内にいることが普通でした。

周囲の従業員や顧客なども、「いずれこの子供が会社を継ぐものだ」と心のどこかで思っていたことでしょう。

しかし、個々の人間が自分なりの生き方を求める現代では、子供が親の会社に入りたがらないことが増えました。

また親である社長も、子供にそれを強いらないケースが増えました。

日本経済の先行きも含め、「社長になることが子供の幸せなのか」と不安を感じるようになったことが原因のひとつでしょう。

自分の人生や仕事を鑑みて「子供には同じ苦労をさせたくない」と考える社長も増えています。


親族内継承のポイント

後継者育成

親族内継承の場合、分かりやすく、周囲に理解もされやすいところでしょう。

一方で、それが甘えとなったり、なあなあな関係になりがちです。


後継者は血で選ぶか、能力で選ぶかは、事業継承における究極の選択とされます。

しかし、先代と血がつながっていようがいまいが、結局は後継者の社長としての器や能力が問われます。

最近では、身内のえこひいきのようなものを嫌う傾向が強くなっています。

仕事ができる従業員ほどそうでしょう。

後継者の育成なくして、事業継承の成功はありません。


でも悩ましいのは、先代社長が後継者を「成長させる」ことはできない点です。

成長のためには、後継者に環境を与え、あとは自分で伸びることを期待して待つことしかできません。

しかし、言うは易しでこれが難しいのです。


コミュニケーション

親族内継承については、身内だからこそコミュニケーションを取り難い面があります。

すぐ感情的になって対立してしまったり。

社長が一方的に自分の考えを子供に押し付けてしまったり。

ちゃんと話をしたこともないのに「相手は分かっているはずだ」と思いこんでいたり。

あまく考えられがちなコミュニケーションの問題ですが、これが原因で決定的な破局を迎えることすらあります。

親子間をはじめ、親族だからなおさら注意すべきポイントです。


株式の引渡しと相続

中小企業の事業継承においては、後継者に株式まで手渡すことがセットだと考えていいでしょう。

分散している株式や、関係を整理しておいたほうがいい株主の持つ株式は、先に社長が買い集めておいたほうがいいかもしれません。


社長が持っている株式については、子供や配偶者が後継者ならば、最後は相続のときに株式を継承させることができます。

節税のテクニックや支援制度もいろいろ使えることでしょう。

第三者の従業員が後継者の場合と比較すれば、税金や資金的な問題をクリアしやすいところです。



しかし事業継承は、会社をうまくバトンタッチするために取り組むものです。

であれば先代が生きていて、元気なうちに決着をつけるのが筋です。

基本的には事業継承は相続が起きる前に終わらせておくテーマだと認識しておいてください。


最後に、後継者以外の親族の感情にも目を配ることを忘れないでください。

もし「後継者ばかりが優遇されている」と不満を募らせていたら、先代社長が亡くなったときに不満が爆発して相続紛争になってしまう恐れがあります。

親族との関係や、相続問題が、後継者の足かせになることもあるのです。


親族外継承とは?(A-②)

後継者を、社内の人間だけれど親族ではない人にする場合が、「親族外継承」です。

役員や従業員などが典型例となります。

一緒に仕事をしてきたのだから、後継者と気心は知れています。

後継者候補に選ばれるくらいだから、能力も高いことでしょう。

仕事上の引継ぎは、しやすいはずです。

悩ましい点は、それでもあくまで他人だという点です。

たとえば、従業員等は相続の対象ではないので、株式の引継ぎに苦労をしやすくなります。

結局、先代社長がどこまで面倒を見てあげるか、どこまで譲歩してあげるか、という問題になりやすい傾向があります。


親族外継承のポイント

社長就任の受諾

社長が、役員や従業員に「次の社長になってくれ」と申し出ても、断られるパターンは結構あります。

相手は「あくまで自分は勤め人だ」という自己認識を持っていたりします。

また社長業は大変そうで、「とても自分にはできない」とも。


申し出を受けた本人は前向きでも、その奥さんなどの相手の家族によって拒絶されるケースもあり勝ちです。

「私は安定している会社員だからあなたと結婚したんだ」とか・・・

連帯保証などの問題で、「社長=不安定」「社長=」危険という思い込みを持たれているケースもあります。


退職金

退職金はがんばってきた社長へのご褒美です。

税理士と相談しながら「いくらまでなら退職金を取っても大丈夫」なんて教えてもらったりしているかもしれません。

ただし、これはあくまで「税務上受け取ってもいい退職金の上限」です。

事実上受け取れるかどうかは、まったく別の話となります。

社長が退職金をたくさん受け取れば、会社の現預金は減ります。

借金をしなければ退職金を支払えないかもしれません。

もちろん会社の財務内容は悪化し、倒産リスクを高めることにつながります。

どうするか?

社長の希望と、後継者や会社の今後を助けてあげたい想いが相反します。

このあたりのさじ加減が難しいところです。


株式の売却

株式を買い取ってもらおうと思っても、その資金をどうやって調達するかがネックとなりがちです。

仮にうまく後継者が株式買取の資金を銀行から借りたとしても、その後の返済の問題もあります。

だからと言って、著しく安く売ってあげるのも気が進まないかもしれません。

このあたりが子供などの親族内継承との差です。


「株式は手元に残して配当をもらい続ければいい」なんて意見もありますが、私には絵に描いた餅でしかないとしか思えません。

配当を出すためには、会社は利益をだして、税金も払わなければいけません。

後継者は、あなたが満足できるレベルの配当を出せるような経営ができるでしょうか。


そもそも株式なんて、会社が潰れれば紙くずです。

血縁の無い人間に会社の命運を託して、そうなったときに納得できますか。

理想と現実の折り合いが難しいところです。


社長の相続発生

株式の後継者への継承ができていないときに、社長が亡くなってしまうと大変なことになりかねません。

あるケースでは、社長が従業員を「こいつが俺の後継者だ」と公言していました。

ところが株式を渡さないまま社長は病死。

相続権もない後継者は、結局会社を引継げませんでした。

第三者を後継者とするのならば、万が一に備えた手は事前に打っておいてほしいところです。


外部継承(B)とは?

「外部継承」は、他社に会社を売るM&A(企業の合併や買収)が代表例です。

他には、経営人材を外から招へいするケースもここに含まれるでしょう。

しかし、事例は多くありません。

ここでは他社への売却に絞ってお話をさせていただきます。


かつてのM&Aのイメージは良くありませんでした。

しかし今となっては、中小企業の世界でも特別なことではなくなり、かなり市民権を得てきた気がします。

M&Aの仲介やアドバイザー業務を手掛ける会社の中には上場を果たす会社も出現しました。

「この仕事が金になる」と思った業者や銀行がM&A業務に群がるようになり、案件の獲得競争が激化しています。


外部継承(M&A)のポイント

M&A会社の手数料

外部継承の場合、M&A会社へ支払う手数料が大きくなりがちです。

不動産の宅建業と同じく、売れた値段の3%から5%という報酬計算ルールはありますが、それとは別に最低報酬が決まっているケースがほとんどです。

最低報酬は1000万から2000万あたりの会社が多いでしょう。

会社の売却の際には、この予算は見込んでおかないといけません。


売れない可能性

希望したところですべての会社が売れるわけではありません。

「後継者がいなければM&Aです」なんて、サラッと解説をしている記事や本は多いけれど、そんなにあまくないのです。

M&A業者は、とにかくたくさんの売りたい会社を集めようとします。

その中で売りやすいもの、利益率がいい案件に力を入れて売ります。

別にすべての案件が売れなくてもかまいません。

むしろ、ごく一部の会社が売れるだけで十分に利益が出る仕組みです。

このあたりのM&A業者のスタンスに注意しておかないと、大切な時間やお金を無駄にさせられることがあります。

「M&A業者に売却をいらいしていたけど、売れなかった」

「着手金だけとられた」

こんな相談が奥村のところには増えています。


事前準備

売ることに向けた事前準備、これが最も大切です。

たとえば、株式が分散しているのならば、事前に買い集めて全株売れるようにしておくこと。

社長が会社から去っても仕事の穴や、顧客の離脱が生じないように権限移譲等を進めておくこと。

契約書を確認して、必要に応じてブラッシュアップしておくこと。

不透明なお金の流れを是正しておくこと。

サービス残業代など、人事の潜在的問題を整理しておくこと・・・など。

こうした整理をちゃんとしておけるか否かで、かなり結果が変わります。


売り手のマインド 

売り手たる社長の考え方や心持ちも問われます。

「ウチの会社はブランドがある」といくら社長が思っていても、さほどその点が評価されないことはざらにあります。

売値は客観的に決まりますし、セオリーがあるのです。

欲をかきすぎたら売れません。

ある種のあきらめや妥協が必要になりがちです。


買い手に対して、あれこれ注文を出すことも意味がありません。

むしろ、やめておいたほうがいいでしょう。

「会社が他人の手に渡ればもう口も手も出せない」と自制するくらいでちょうどいいと思います。

売るということは、そういうこと。

自分が口や手を出していい境界線を意識し、その先のことは割り切れるようになってください。


事業継承の方法を見てきたところで、成功のコツを考える

事業継承には、親族内継承、親族外継承、社内継承の3つがありました。

他の解説では、もっと細かく分類しているものもあるでしょう。


この先はさらに、突っ込んだ話をしていきます。

事業継承デザイナー奥村聡が現場に踏み込んできたからこそ見えた問題です。

問題をクリアするコツもご紹介いたします。


一番の目的をしっかりさせる

たとえば、こんな風に話をする社長がいたとします。

「後継者にしたい社員がいるんだけど、彼には会社の株式を買うお金がなさそうだからM&Aで他社に会社を売ることにするよ」

いかが感じますか。

私には悪い意味での「軽さ」が感じられます。

社長の最後の仕事に関する判断なのに、事業継承の解説記事などはこのレベルの浅いものばかりが氾濫しています。

お金を優先しちゃいけないと言いたいのではありません。

あなたは、本当はどうしたいのか。

一番の目的は何か。

このあたりの「社長なりの軸」を明確にしていただきたいということです。

目的がしっかりしていないと、ブレて失敗します。

社長であるあなたが、納得を得られなくなります。


税金や法律の技は脇役

「事業承継税制ってどうなの? 資産管理会社っていう手法もあるんだね。相続時精算課税は・・・」

事業継承関連では、税金や法律に関するものや、補助金などのいろんな「技」があります。

そして、技に翻弄される社長もいます。

酷いケースでは「いつ、誰に会社を継がせるか」という根本がまったく明確になっていないのに、節税の技術などばかりに関心があってドタバタしたり・・・と。

(このパターンの方は結構いらっしゃいます)

先ほどお話した「目的」が明確になっていないのです。

なのに「手段」たる技ばかりを考えても、意味はないどころか、害にしかなりません。


たとえば、株式を移転する際の節税策などは、本来、事業継承のメインテーマではありません。

それなのに、節税に血眼になって、本質を見失ってしまう人がいます。

中には過度な節税策で、他の大きな問題発生リスクを高めたり、会社の存続を危うくしてしまうケースだってあるのです。

税金や法律の技、補助金等はしょせん手段です。

脇役です。

何が主で、何が従かを意識的に整理したほうがよさそうです。


継がせちゃいけないものもある

事業継承というと「継がせる」という積極的な方向に意識が行きがちです。

でも、「継がせないほうがいいもの」も実際はあります。

事業経営としては、継がせないことで害を取り除いてあげたほうが、効果的だったりするものです。


例えば、筋の悪い顧客との付き合い。

関係性の良くない取引業者。

今度、後継者の足を引っ張ることが問題社員・・・

継がせないことが、今後の会社や後継者のためになります。


そして、過大に膨らんだ借金と、その連帯保証。

後継者の首を絞める最も大きな問題となるかもしれません。

(借金についてはまた後ほどお話します)

継がせるものを考えるだけでなく、「継がせないほうがいいもの」もリストアップしてみてはいかがでしょうか。


廃業も立派な選択肢

ずっと事業継承の話をしてきましたが、実は、大きな穴があります。

「会社をたたむ(=廃業)」という選択肢が抜けているのです。

廃業(ときに倒産)まで含めて、トータルで『会社の着地』を検討すべきでしょう。


冷静に考えれば、事業継承をするには相手が必要であることをお分かりいただけるはずです。

こちらでコントロールすることはできないので、すべて社長の思い通りにはいきません。

そうであれば「会社を継ぐ相手が見つからないときどうするのか」まで、視野に入れておくことが賢いスタンスになります。


「会社を継がせなければいけない」「廃業は悪だ」と決めつけて、選択肢を自分で狭めてはいけません。

事実、廃業を選んだほうがいい会社もあります。

廃業が救済となる場合もあるのです。


たしかに、もったいない廃業や、周囲に迷惑をかけるような廃業はあります。

でもそれは廃業自体が悪いのではなく、やり方が下手だったということです。

上手にやれば、迷惑を最小限におさえられるし、雇用や事業などの他社へ引き継いだうえで廃業することだってできます。

事業継承だけでなく、廃業、さらには倒産まで視野にいれて検討すべきだと思います。

事業継承は、あくまで「会社の着地」の1パターンでしかないという考え方です。


借金と連帯保証には最も注意

破綻しそうな会社から相談を受けると、「そもそもこんな財務内容の会社を継ぐことが自殺行為だった」というケースがあります。

過去には、借金が大きく、返済に十分な利益を稼げていないのに、さも当たり前のように会社を次代に引き継ごうとしている社長もいました。

借金は事業継承でもっとも警戒しなければいけないポイントです。

しかし、ちまたの解説などでは、この点に対する注意喚起が甘い感じを受けます。


借金が過分に大きいのならば、最低でも後継者は個人保証を回避できる方法を模索してください。

常識にとらわれていては、それはできません。

個人保証さえなければ、会社の経営が破綻しても被害が個人資産に及ぶことを回避できます。


逆に「借金が大きいから会社を売れない、継がせられない」というセリフを聞くことがあります。

過大な借金を警戒している面ではいいのですが、それですべてをあきらめる必要はありません。

たとえば、借金は会社に残し、事業だけを他社や後継者へ継承させる企画が立てられるかもしれません。

会社分割等の分社手法で、借金等の悪い部分と、まだ生かせる良い分を別に分けておくことが有効な場合もあります。

そうすれば、良いほうの会社だけを後継者に継承させるという新しい選択肢が作れるのです。


あなたはどうやって社長を辞めるのか

会社を誰かに継がせる方法をテーマとしてお話してきました。

そして、継がせるだけでなく、廃業も視野に入れるべきだともお話しました。

会社を継がせる、もしくは会社をたたむ。

これらは会社を中心に置いたときのものの見方です。

しかし、社長を中心に考えれば「社長が会社を辞める話」だという見方もできます。

そう、事業継承や廃業の問題は、「社長はどうやって社長をやめますか?」という問いでもあるのです。

会社の問題であり、個人の問題でもあります。


ところが、この「社長個人のこと」は後回しになっていたり、完全に無視されているケースが非常に多くなっています。

極端なケースでは、社業が事業継承について語っているけれど、実は、本人には「自分が社長を辞める覚悟や意識がまったくない」ということすらありました。

これでは話がおかしくなるし、プロジェクトは進みません。

多くの会社で「事業継承の話が進まない」という話は聞きますが、原因はここにある場合が多いのではないでしょうか。

ある意味で、プロジェクトがキーマンたる社長不在になっているのです。


会社より先に、社長の人生をどうするか

考え方の順序として、会社をどうするかより、社長の人生をどうするかが先なのです。

自分はどんな価値観を有していて、何を大切にして、どうやって生きていくか。

それを固めたうえで、会社の着地をどうするのかを考えるのが、奥村が見出したセオリーです。

私たちは意思を持った人間です。

自分のことをどこか脇に置いたまま、会社のことばかりを優先させることはできません。

社長が納得できるゴールを手にするためにも、まず自分の人生と対峙することです。

結果的に事業継承のプロジェクトを推進させることにつながります。


私は、『会社の着地計画』という教育的コンテンツを作りました。

会社の着地問題に決着をつけなければいけない社長さんたちが、前にも後にも進めない状況に陥っていることを、なんとかしたいと想ったことが動機です。

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機能としては、社長が自分にふさわしいゴールを見出し、そこに至るための計画が策定できるシステムの開発を目指しました。

しかし、よくある事業継承の手法や株価評価などの話が占めるのは、ごく一部でしかありません。

多くは、社長の個人の人生を棚卸し、価値観をたしかにするためのワークなどになっています。

意思決定者である社長の考え方と姿勢が固まれば、会社の着地問題はおのずと答えが出るからです。


多くの事業継承に関する議論で抜け落ちているのは点です。

会社のことばかりに目が向き、意思決定者である社長個人のことを見ていません。

社長の魂や意志がこもっていないのに、事業継承等の会社の着地を進めさせようとする愚を犯してしまっています。

社長であっても、一人の人間です。

ぜひ、自分がどうありたいか、どう生きていきたいかからスタートしてください。

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は850社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられたコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』

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奥村はメールマガジン『社長の着地戦略会』を発行しています。
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