事業承継で女性が突然社長に、について

 

「私は女だから、弟が家業を継ぐものだと長年思っていました。

社長である父も、周囲も、みんなそう考えていたはずです。

しかし、弟が父とケンカして会社を飛び出して音信不通になってしまい、結果、私が会社を継がなければいけなくなって・・・・」

 

私のクライアントの女性社長が、社長になった経緯を語ってくれたことがあります。

 

このようなパターンは、他社にもたくさんあります。

2月22日の日経新聞に「事業承継で突然社長に 夫や父からバトンタッチ」という記事がありました。

そこで紹介されているエヌエヌ生命保険アンケートでは、

 

中小企業の女性経営者に聞いたところ、事業承継で社長になった人の57%は後継者になることを「想定していなかった」と答えた。

承継にあたり事前の準備期間が「(ほとんど)なかった、突然だった」と答えた人は45%に上った

 

となっていました。

 

さらに、帝国データバンクの調査による、M &Aや社内承継、起業等も含めた女性が社長になった経緯については、半分以上(51%)が「同族承継による」とのことです。

 

ここから典型パターンが見えてきます。

・後継者候補だった男の他の兄弟が、会社を辞めてしまったり、死亡してしまった

・社長だった夫が、死亡等の理由で経営を継続できなくなってしまった。

こうして女性は、自分が思わぬかたちで会社を継ぐことが多いのでしょう。

 

私の亡くなった母親も同様でした。

後継者候補の弟がいましたが、彼がいなくなってしまったことで、会社の後継ぎになっています。

 

社長になるための準備不足

この承継パターンでは、本人に会社を継ぐ自覚がないため、準備が不足しがちです。

ただ、その女性後継者のほうが、元の後継者候補だった男性より社長に向いていると感じるケースが実は多かったりします。

先代の父とも、女性のほうがうまくやれるケースが多いですしね。

 

とはいえ、準備が不足していることは事実です。

急に出番が回ってきた女性の後継者はどうしたらいいでしょうか。

 

私がすぐに思いつくのは、「とにかくメンター見つけること」ことです。

 

自分がいずれ社長になると思っていた人でさえ、基本的に先代よりもずっと視野は狭いものです。

社長として本来持つべきマインドもなかなか持てていません。

急に社長になった人となればなおさらでしょう。

 

このあたりの欠如を自覚し、考え方や価値観などを変えていかなければまずうまくいきません。

あなたの想いをぶつけられて、忌憚のない意見をくれ、導いてくれる人がほしいですよね。

 

メンターはどんな人がいいのか?

では、どんな人がいいのか。

最近手にした安藤美冬さんの著書『新しい世界へ』に、「感情的のバランスがとれている人と話をするのがいい」と書いてありました。

感情のバランスの取れている人の定義は、「あなたが恐れていることを恐れていない人」ということだそうです。

 

この助言は、今回の話でも参考になるもののような気がします。

ただあなたに同調するだけの人では、共感こそあっても導くことはできません。

一方、あなたが歩む先の世界を見える人ならば、「あなたが恐れていることを恐れていない人」に該当するはずです。

 

 

そう考えれば、親身に相談に乗ってくれる先輩の女性経営者あたりがベストでしょう。

 

気がかりなのは、相手も忙しいでしょうし、仮にOKをもらえたとしてもどれくらいコミットしてもらえるか、です。

相手が善意で受けてくれた場合では、無理強いはできません。

 

いっそのこと仕事として対価を払い、本気になってもらうのも一案です。

お金を払うことは、相手を拘束する有効な手段です。

 

 

先輩経営者のあてがない場合は、コンサルタントなどのプロの経営支援者を雇うことが現実的なのかもしれません。

この場合でも出費をケチってはいけません。

 

 

元々サラリーマンだったり、主婦だった方が社長になると、これまでの延長でなんでも切り詰めようとする場合があります。

もちろん節約は大切です。

しかし、社長というのは、先にお金を投じて後の利益を引き寄せる生きものです。

そして、社長の場合、自分自身への投資が一番会社の利益に直結することだったりもします。

社長にふさわしいお金の考え方や使い方がありますね。

 

 


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着地戦略会・芦屋評定『新型コロナ大反省会』

『新型コロナ大反省会』をテーマに、着地戦略会ミーティングを開催

世界を混乱に陥れた新型コロナウィルス。

まだ終息には至りません。

しかし、コロナ渦に端を発した様々な出来事は十分に見えたのではないでしょうか。

騒動を振り返るには今しかないと考えます。

終息したらしたで、痛みもコロッと忘れてしまうのが私たちですから・・・

 

中国古典の易経には、大騒動の場面を描いた震為雷という卦があり、その解説をする彖伝ではこのように書かれています。

「彖に曰く、震は亨る、震の来たるとき虩虩たりとは恐れて福を致すなり、笑言唖唖たりとは後に則あるなり」

最後の部分を私なりに解釈すると、恐ろしい騒動から今後の規範を見出せば福を得られる、です。

こんな気分で、今後の経営や仕事に生かせる教訓や自分のルールを見つけましょう。

 

会の進め方

まず奥村がテーマに合わせた呼び水となる話をします。

それをふまえて、自分の考えを検討したり、他の参加者の意見を聞いただきます。

脳内へのダイナミックな刺激が、次の行動につながることを目指します。

 

こんな方にお越しいただきたい

・コロナ後の会社を考える経営者

・会社の引継ぎを考える後継者や起業家

・経営支援に関わる士業

 

日時と場所

2021年3月13日(土曜日)
9時開場(9時半開始)~12時まで

colle (芦屋ギャラリー)
〒659-0093兵庫県芦屋市船戸町10-19 光ビル 1階
JR「芦屋」駅から徒歩約3分
阪急「芦屋川」駅から徒歩約8分

詳しいアクセス方法は、こちら

 

参加方法

①参加費:

着地戦略会員 1,000円(税込)

一般参加  3,000円(税込)

※現金による当日現地払いでおねがいします

②申し込み

こちらのリンク先からお申込みください。

 

※注意事項※

①会場の定員に達した場合は募集をストップします。ご興味ある方はお早めにお申し込みください。

②新型コロナウィルスの感染拡大防止にご注意願います。

当日はマスクの着用をお願いします。

また、体調不良や熱のある方場合は、参加をお控えください。

 

事業譲渡を使ったM&Aが初耳ですと!?

 

事業譲渡によるM&Aの依頼を受けました。

条件をまとめて、相手を探していきます。

 

前から「会社をどうしようか」と考えていた社長さんです。

相談も受けていましたし、私の『着地戦略会』の会員さんでもあります。

なのに、です。

M&Aを決断したきっかけをお聞きして、衝撃を受けました。

 

「いやね、某M&A会社の人が営業に来てね。

『会社は残して、事業だけを売却することができますよ』って言われたんだ。

その話を聞いてなるほどって思って。

ただ、どうせ頼むなら奥村さんにお願いしたくて」

と、社長は語りました。

 

私は心の中で驚きの声をあげました。

(え! 部分的なM&Aでもできるなんて、私たちの間では常識では!?)

 

 

前から一緒にお話をしていた社長です。

私の本も読んでくれています。

当然にこのような手法があることは、当然伝わっているものだと思っていました。

 

会社分割や事業譲渡を使った分社スキームは奥村が十八番にしていたものです。

今でこそ、奥村と言えば事業承継や廃業ですが、その前は奥村と言えば会社分割が代名詞だった時代もあるくらいです。

それを、私のお客さんが他社の営業マンから説明されて、「なるほど、その手はいいですね」ってなるなんて。

驚きと、申しわけなさと、ふがいなさと・・・諸々です。

 

 

私が勝手に伝えたつもりになっていただけで、本当はそんな機会が無かったのかもしれません。

私の伝え方が下手だから、社長にピンとこなかっただけかもしれません。

 

話と言うのは、こちらが思っている以上に、受け手に伝わっていないものなのですね。

あらためて痛感しました。

よく、肝に銘じておきます。

 

 

売り手社長の知恵袋としてM&Aを支援

 

M&Aに挑戦していた兵庫県のお客様の会社で、無事クロージング(代金決済など)を迎えました。

ちなみに私は神戸に自宅があるものの、県内のお客さんはさほど多くありません。

 

今から借金までして投資するのも・・・

一般ユーザー向けの日常サービスを提供する会社でした。

従業員は正社員が40名ほどです。

社長さんはまだ50代半ばです。

「この先、会社をどうしよう?」と相談いただいたことからはじまりました。

 

 

堅実経営でやってきて、借金もありません。

しかし、この先の経営には頭を悩ませます。

 

ひとつは資金力の問題です。

今後もやっていける事業を作ろうとするならば、ドンと大きな投資をしたいところです。

しかし、自分がその借金を負うと考えると逃げ腰になってしまいます。

 

また、後継者の問題があります。

自分には子供がいないし、従業員の中にも適任者は見当たりません。

 

投資をしないとジリ貧。

しかし投資をしたら今度は借金で、自分の引退や後継者の問題が難しくなってしまう。

こんな板挟みの状況に苦悩していたのです。

 

M&Aで資金力のある相手に委ねよう

数か月社長と私は協議を重ね、M&Aで会社を売却する決定をしました。

大手の傘下に入ることでより今の会社をより発展させてもらいたい、と考えました。

 

私と会う前から、社長のところにはたくさんのM&A業者から営業がかけられていました。

DMを見せてもらったことがありましたが、まあすごい量です。

でも、社長はいきなりM&A業者に声をかけるのではなく、奥村に相談をもちかけました。

なぜでしょうか。

 

「どんなやり方があるか、どの会社を使うのがいいかなど、幅広く相談できそうだったから」

「M&A業者は自社の利益だけを考えそうで信じられなかった」

こんな理由だったそうです。

いわば、純粋な参謀役が欲しかったということですね。

 

M&Aに動くという方針が決まったところで、諸条件を詰めました。

たとえば「1年間で満足いく結果が出なかったら方針を転換する」などです。

上手くいくケースばかりではないので、いろんな状況を想定しておかなければいけません。

 

M&A業者を選定

さらに、私のほうで何社かM&A業者にアプローチし、最も合っていそうなところを社長に推薦しました。

2、3社に絞ったうえで、直接社長にプレゼンをしてもらってもよかったのですが、「奥村さんが一番よさそうだと思う会社でいきましょう」とのことで、私が推させていただきました。

 

 

奥村がM&Aのアドバイザーとして相手探しや折衝はしないのか、と疑問を持たれた方がいらっしゃるかもしれません。

やらないわけではありませんし、実績もあります。

ただ、最近は仕事が手一杯になっている傾向もあり、このように他社を活用させていただくことが増えました。

 

会社の規模が大きいときはなおさらです。

自分がアドバイザーとして動くのは、小さな会社で適任のアドバイザーがなかなか見つからない場合や、話の拝啓が難しい事業譲渡などの場合が多くなっています。

 

 

M&A業者が決まったところで、後はそちらに任せて私は顧問を降りたほうがいいかと思いました。

しかし、そんな話を社長にしたところ「最後まで一緒にいてほしい」というありがたい言葉をいただきました。

そのため、以後のM&A業者さんとの打ち合わせや、買い手のトップとの面談などにも同席しています。

社長の知恵袋的なポジションです。

 

社長の知恵袋としてサポート

結論としては、奥村がいる意味はかなりあったように感じました。

社長さんからは頻繁に相談がありました。

「M&A業者は○○って言っていたけど、どんな意味?」とか。

「あまり納得いかなかったけど、仕方ないの?」と。

裏で説明のフォローをしたり、時には私がM&A業者におかしいと伝えたこともありました。

 

一般的に、交渉が進めば進むほど売り手は精神的にきつくなってきます。

交渉相手が絞られ「この話がなくなったら」どうしようと不安になります。

M&A業者も、話をまとめるために買い手に肩入れしようとする傾向が現れることがよくあります。

私のような立場の人間がそばにいることの心強さは、間違いなくあったと思います。

 

 何とか成約へ

今回の件では、話が二転三転しました。

何度も交渉決裂を覚悟したものです。

 

特に大きかったのは、買い手が基本合意後に買値を下げてきたことです。

 

当初、新型コロナによる売上減少の影響は、売買価格に反映しないという約束がありました。

そのうえで基本合意書を締結しました。

ところが買い手はその約束を反故するようなことを後になって言い出したのです。

 

こちらとしては当然受け入れることができず、必死で抗議をしました。

M&A業者も粘り強く対応してくれたおかげで、最後は売り手の社長としても満足がいく数字で折り合いがつきました。

本当に冷や冷やしました。

 

 

1年近く社長さんと二人三脚でやってきたので、仕事が終わってしまう寂しさが少しありました。

でもとにかく、社長さんを無事にゴールまでお連れできて本当によかったです。

 

1人に賭けられるか?

ブログを復活します。

他の独立ブログをしばし続けていましたが、当初のスタイルに戻すことにしました。
もう顔も思い出せない社長さんなんですが、いまでも毎年私の好物を贈ってきてくださいます。

 

そちらの会社は、大きな負債を抱えて行き詰まりました。

私は会社の再建と社長の自宅保持を支援させていただきました。

 

作戦立案者としては、こうしてお礼がつづくということで「問題が起きていないのだ」と安心させてもらえます。

策は、後になってみないと本当に正しかったのかわからないものですからね。

 

 

ただ私の功績なんてどうでもいい話で、当時のご自身の判断を祝っていただきたいところです。

 

「誰を信じるべきか」

「どの意見を信じるべきか」

きっと悩みがあったはずです。

外野からのいろんな意見もあったはずです。

困難に陥ると、いろんな人間(とくに胡散臭いやつ)が登場したり、周囲が好き勝手いろんな意見を言い出すものです。

 

実際それで、キョロキョロ周囲を見回すだけで、優柔不断の沼に落ちてしまう人がいます。

 

何人もの専門家を掛け持ちすることで失敗する人もいます。

責任者は最後、一人に絞らないとうまくいきません。

人の意見を部分的に採用しようとする人がいますが、絶対NGです。

まず失敗します。

 

うまい話、自分に都合のよい話に心が惹かれて、最後は苦い思いをさせられる人もいます。

 

一人を選び、その人を信じぬくということは、僕ら支援者サイドが思うよりずっと大変なんでしょうね。

その状況で奥村を選び、最後まで賭けきった勝利です。

おめでとうございます。

 


荒れる事業承継準備委員会を仕切る

 

あまたの不満や不安が出るわ、出るわで大変です。

これには、社長もビックリです。

継手の会社と継がれる会社のコアメンバーによる顔合わせの機会でした。

 

後継者は娘の『法人』

こちらの支援先は、関東のとある会社(A社とします)。

社歴45年の会社を娘さんが継ぐという背景です。

ただ他と比べて変わっているのは、社内承継なんだけど実質的に法人で引き継ぐということです。

 

社長の娘さんは、取締役としてA社にずっと名を連ねていました。

しかし、別の法人の理事長をした関係もあり、A社の仕事はほとんどしていません。

 

そんな娘さんへの承継がきまり、この度正式に後継者となりました。

 

肩書としては代表取締役になるものの、A社の仕事に100%集中することはできません。

別法人の理事長の也割がありますから。

そこで今回は、別法人の幹部と共同でA社の経営をしていくことになったのです。

娘への承継ではあるものの、別法人の傘下に入るというM&A的なニュアンスが含まれる事業承継となりました。

 

 

私はA社の社長たちと事前の打ち合わせで、正式な社長交代を前に、社内で事業承継委員会を立ち上げることを提案しました。

A社と先方の別法人のコアメンバーが顔を合わせ、スムーズな経営統合のための話し合いを行おうという意図です。

先代も、後継者の娘さんも同意してくださり、先日第一回目の話し合いがもたれました。

 

不満と不安があふれ出た!

会では、私が司会進行役を務めます。

今回の会合開催の経緯や、準備委員会活動の意義を簡単に伝えました。

次に社長よりご挨拶をいただき、正式に事業承継の準備を進めていくことを宣言しました。

 

その後、参加メンバ―各自の自己紹介です。

堅苦しくならないように、アイスブレイク的な要素も加えて自分を語っていただきました。

 

お互いへの質疑応答の機会もありました。

これが大いに荒れることになったのです。

 

「ウチの会社が吸収されることに不安と不満があります」

「かつての取引で弊社はそちらからむげに扱われたことがあるため、正直、今回の話は前向きに考えられません」

A社サイドから、こんなネガティブな発言が噴出してきたのです。

 

当初社長は、「ウチのスタッフ達に問題ないよ。娘の法人のグループに入ると言えば『ハイ分かりました』と言うでしょう」と高をくくっていました。

ところが、です。

社長は甘く見ていました。

 

やはり、人は変化というものに対して、過剰に悪く捉える傾向があるということです。

そもそもトップの人事ということは、トップ本人が思っている以上に社内へのインパクトがあるものです。

物事が動く場面は、これまで溜まっていた怒りや不満が噴出しやすい機会となります。

継がれる側にいる人間の気持ちの微妙さを、トップも継ぐ側も注意しておかなければなりませんね。

 

 

ところが、継ぐ側となる別法人の幹部メンバーは、そのあたりの機微が読めません。

お互いのことをまだよく知らない状況なのに、無理に話を進めようとします。

また「どんなシステムを使っているか」等の細かいところにフォーカスしようとします。

よく言えばまじめで、悪く言えばせっかちで、融通が利きません。

 

腹を割って本音を

こんな状況で、奥村は「初回はとことん本音を吐き出してもらう機会にしよう」と肚を決めました。

準備していた予定は大幅に変更です。

 

 

全員に今抱えている恐れや不安を語ってもらいました。

A社のメンバーが不安や不満を語れば、別法人の幹部からは

「こんなに抵抗感があるとは意外でおどろいた」

「この先うまく一緒にやれるのか心配になってきた」

という声も出ました。

 

初回の顔合わせは、和やかな雰囲気とはとても言えないものでした。

でも、考えようによっては、このタイミングで本音が出るということは良いことです。

わだかまりを溜めたまま事が進み、後で大爆発というのは最悪なパターンとなります。

大きな成果と言ってもいいでしょう。

 

言いたいことを言ったあとは、「双方が仲良くなるためのアイデアは?」をお題にアイデア出し(ブレインストーミング)を企画しました。

人はアイデアを考えることで、気持ちが前向きになります。

また、一緒の方向を見て活動したことで他のメンバーと親近感が沸きます。

どんなアイデアが出たかではなく、アイデアを出す作業自体に意味があると考えたわけです。

 

後継者の娘さんの涙

そんなこんなで初回の会議を終えました。

 

後継者となる娘さんからの締めの言葉の際、彼女は涙を流しました。

自分が社長としてA社から受け入れてもらえるか不安だったのでしょう。

実際に会議の場では厳しい声も聞かれました。

 

でも最後には、みんなが和やか顔をして「いっしょに次へ進もう」という雰囲気が醸し出されました。

「それでホッとして思わず涙が・・・」と次期社長は照れ笑いをされていました。

娘さんの涙のおかげで、場の一体感がより強まったことも否めません。

 

 

「正直、今日はコンサルタントの先生が来ると聞いていたので嫌な気分でした。コンサルタントにはいい印象がなくて・・・。でも奥村先生は良い人でよかったです」

こんなことを終了後にA社のメンバーの一人から言われました。

他のコンサルタントの仕事ぶりはなかなか知る機会がないのですが、第三者を通じてたまにこんな声を聞きますね。

 

 


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社長交代と個人保証免除について金融機関と折衝

 

事業承継前の銀行への根回し

とある神奈川県の企業の事業承継支援をしていました。

こちらの会社は息子さんが後継者です。

いよいよ代替わりということで、奥村が計画を練らせていただきました。

 

今日は、その計画のひとつである銀行との事前の話し合いです。

お金を借りている以上、声をかけておくべきでしょう。

あちらとしては、何の前触れもなく勝手に社長交代を進められたとなれば、不愉快に感じて当然です。

借入のある地銀2行と信用金庫1行を、社長と後継者と共に訪問しました。

 

個人保証外しの依頼

今回の訪問には、根回しという意味の他に「個人保証の解除」という目的もありました。

後継者は「個人保証があるなら会社は継がない」というほど弱気ではありませんが、やっぱり外せるならば外しておきたいところです。

財務状況的には微妙なラインかと見ていました。

 

『経営者保証のガイドライン』ができ、たしかに世の中的には社長の連帯保証を免除する方向に風が吹いています。

しかし、どの会社でも外せるかといえば、そんなことはありません。

やっぱり財務内容が良好で、信用に値する会社である必要があります。

 

最近、経営者保証コーディネーターという役割を担っている現場の方に状況を聞いたことがあります。

「依頼があっても、実際に個人保証を外せるのは2割。

6割は財務改善が必要で、残りの2割は倒産間際の案件だと……」

やっぱり、そんな生やさしいものではありませんね。

 

銀行から概ね了解を得る

話し合いのほうとすれば、どこも良好な雰囲気で話ができました。

社長を交替するということについて、歓迎ムードです。

結果はまだ確定ではありませんが、個人保証のほうも前向きに受け取っていただいています。

 

ちなみに奥村は『経営者保証のガイドライン』を使わなかったのかという点ですが、使っていません。

ひとつは手間が増えことを面倒に思ったためです。

別に、ガイドラインを使わなければ保証を解除してもらえないわけでもありません。

むしろ、普通に話をしてみて、ダメだったときの次の手として使ってもいいくらいに考えていました。

 

このあたりは、事業承継における経営者保証ガイドラインについて解説したこちらもお読みください。

「事業承継の『経営者保証に関するガイドライン』をぶっちゃけ解説」

 

コンサルタントがいる隠れたメリット

なお銀行との話し合いでは、いろいろと要求されることがありました。

「退職金で金融商品を買ってくれ」

「ウチで制度融資を使ってほしい」

こんな感じで。

こんなちょっと強引な売り込みも、外部支援者の奥村が入っていることで、上手にかわすことができました。

社長には「奥村がダメっていうから・・・」や「奥村に任せているから自分には判断できない・・・」と言っていただくようにあらかじめレクチャーしていました。。

他人のせいにできるということは、実は外部人材活用の隠れた大きなメリットだったりするのです。

 

個人保証外し後日談

事業承継を経て、すべての債権者から、新社長の個人保証の免除の内諾を得ることができました。

成功の要因ひとつに交渉のやり取りの巧みさがあったと思います。

暗にライバルとなる他行の存在を匂わせつつ、競争原理を働かせる工夫をしました。

 

もう一つは、銀行からの後継者への信頼感の構築です。

奥村は後継者と一緒に、しっかりと事業計画を作りこみました。

よくあるようなただの数字合わせでなく、本当に使えるレベルのものです。

そんな事業計画を通じて、考え方や態度を銀行へ表明したことで、後継者への評価が高まったことは間違いないでしょう。

 

うまくことが進み、ホッとしました。

 

 


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第1章まで公開『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?  誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意』

『社長、会社を継がせますか? 廃業しますか? ~誰も教えてくれなかったM&A、借金、後継者問題解決の極意~』

2020年秋に発売された奥村の本、第1章までを特別公開いたします。

なお、本文は最終原稿の前段階のものであるため、実際の本とは少々異なっているところがあります。

社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
→ Amazonサイトへ

 

はじめに

「一度社長になったらやめられない。片道切符のようなもの」

中小企業の社長という立場について、私が漠然と抱いていたイメージです。

昨今、各地で起業支援が盛んにおこなわれています。上手くいった成功事例ばかりが強調される一方で、社長のやめ方、会社の終わらせ方は誰も教えてくれないようです。

とある著名な実業家は、サラリーマン向けの本の推薦コメントで「終身雇用は現代の奴隷制度」という言葉を残していました。しかし、それを言うならば、中小企業の社長こそが現代の奴隷なのでしょう……

 

人知れず世の中小企業の社長はずっと悩んでいます。困っています。

どうやって、会社を手放すことができるのか。いつになったら社長を辞められるのか。そして、その時まで会社の命運はもつのか……。

日本に400万社(※要確認)あると言われる中小企業の社長の平均年齢は60歳を超えています。すでにたくさんの会社が廃業をしていますが、それも氷山の一角。多くは出口の目途すら立てられずにいます。

2020年の新型コロナウィルス禍以降は、急激に会社の様子が変わり、早急な判断を求められるようになった社長も多いことでしょう。

世の中が激変している今、この問題をいかにクリアしていくかは今後の日本を大きく左右すると感じています。

中小企業の社長が、会社と自分自身の出口を上手に迎えられるようにならなければいけません。

 

思い起こすのは15年ほど前にお会いした女性のことです。

飄々とした雰囲気で、笑顔が明るい人でした。年齢は30代半ばだったことでしょう。

5人くらいの貿易業を営む小さな会社に務めていました。同社の血縁関係もない社長から「会社を継いでほしい」とお願いされているということでした。

本人は、やってみたい気もするけど、不安もあり、どうしたらいいかと悩んでいました。

 

それから3年くらいたった後、会社を継いだ彼女から会社の登記手続の相談がありました。

「奥村さんが言っていたように、社長になるということは片道切符でした。一度乗ったら戻れない電車でした。今になって身に染みています……」

女性社長となった彼女が、雑談の中で漏らしたセリフは覚えています。

最初に会ったときとは打って変わって、疲れている印象が強く残りました。無邪気だった笑顔に影が差していました。

会社を引き受けてからいろいろあったのかもしれません。

 

自分では覚えていませんでしたが、彼女にこんな話をしたそうです。

「一度社長になったらやめられない。片道切符のようなものだから、話を受けるならば、覚悟してならなければならない」

当時の私としては常識であり、自然とそんな言葉が口から出たのでしょう。

 

そう、あのときは常識だと思っていました。

でも、これからも常識であっていいのでしょうか。

 

なぜ、社長だけには、「一度社長になったらやめられない」がまかり通るのでしょうか。

ビジネスの世界のスピードが速くなり、浮き沈みも激しくなっています。会社の短命化は進んでいます。

雇用の世界では、従業員の立場ばかりが強くなっています。

なのに社長は、個人保証で借金にしばりつけられ、全責任を負わされる状況がいまでも事実上続いています。途中で方向転換をしたり、後戻りをすることは極めて困難です。

「社長なんだから、当然でしょ」とばかりに。

これだけ流動化が進む世界で、中小企業の社長という立場だけが固定化されて取り残されています。

私にはこれがアンバランスに思えてなりません。社長に酷です。

この問題は、地域経済において、新陳代謝を阻害する原因にもなっていると考えています。いらなくなった古いものが捨てられないため、新しいものが芽生えにくくなっています。

 

「社長でも、やめたくなったら会社をやめられる」

「その気になればまた社長に戻れる」

あるときから私は、こんな中小企業の社長の流動化の道を模索しはじめました。社長の働き方改革です。

 

10数年前の私は、司法書士事務所を経営し、10数名を雇用していました。

しかし、事務所を手放して生きなおしたいと考えるようになりました。

結果的には幸運が重なり、大きなダメージを負うことなく、経営の肩の荷を下ろすことができました

振り返ると本当に綱渡りでした。運に救ってもらえました。

本来はこれではいけません。計画的に、戦略的に、おわれるようにならなければ社長の流動化は進みません。

 

一方、私の祖父は最後に闇に落とされました。

祖父は家業を営んでいました。

本当ならば余裕で勝ち逃げできていたはずが、最後の最後で不祥事に端を発した大きなトラブルに陥り、全財産を失いました。一時は金庫を開けると10億円近い札束が積まれていたと聞いたことがあります。しかし、最後はお金も不動産も泡のように消え去り、悲しい晩年となりました。

終わりの場面の失敗は許されません。祖父のような社長の姿はもう見たくありません。

 

自分の体験と祖父の事件を経て、私は“社長のおわり方”にこだわるようになりました。

社長が、社長をやめることができるようにすること。社長が、会社を手放せるようになること。

この道を作ることが、いつからか私の使命となりました。

方法論は自分で確立しなければいけません。どの本を読んでも、誰の話を聞いても、部分的な論点であったり、本質を外している気がしました。

私は愚直に社長の声を聞きはじめることからはじめました。

ひたすら社長の相談を受け、どうすればいいか一緒に考え続けました。声さえかかれば北海道から沖縄まで足を運びました。採算なんて度返しです。

その数は、800社を超えました。

現場での相談や支援を積み重ね、ようやくかたちのようなものが見えてきました。

この本はそんな現場の知恵を体系化したものです。私の活動の集大成です。

 

「会社の手放し方と社長のやめ方のバイブル」となる一冊をお届けします。

 

第1章 廃業視点のススメ ~事業承継“困難期”の社長のための新たな戦略

 

  • 「廃業」と向き合えばすべてが上手くいく

 

「廃業を基準にすれば会社をうまく手放せる」

 

いきなりこの本の種明かしをしてしまいましょう。

『中小企業の出口問題』に対する本書の提案です。

会社を廃業させる。

社長を誰かと交代する。

会社を売却する。

これらの会社、または社長のおわりの場面を、本書では『中小企業の出口』という言葉にまとめさせてもらいます。

そして、出口の基準にすべき『廃業』というキーワードの裏には「自らの意思で潔く撤退する」という信念があります。

会社の出口の付近には、見境なくアクセルを踏み込んで周囲も巻き込んで玉砕するケースもあれば、疲弊し続けながらいつまでもおわれないケースもあります。対比していただけると、この意味合いをお伝えできるはずです。

 

事業承継デザイナーを名乗り活動する私のところには、中小企業の出口におけるありとあらゆる相談が寄せられています。

 

「稼げないし、後継者もいないから会社をたたもうかと思っている」

「会社を売りたいんだけど、値段が折り合わずに売れなかった」

「子供たちが社内にいるけれど、兄弟どちらを社長にすればいいのか」

「ある従業員を社長にするつもりだが、どう話を進めていいかわらない」

「社長である自分に何かがあったとき、のこされた妻のことが心配」

これらはあくまで一例であり、まだまだ様々なケースがありました。

 

ちまたには自分が社長をやめたときのことなんて微塵も考えようとしない人もいます。

でも、私のところに相談にする社長は、どうにかしようと考えてくださっています。この本を手に取ってくだささっているあなたも、今まさに会社の今後について悩んでいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな社長の気持ちを別のかたちで表せば「会社を上手く着地させたい」という表現になるのではないでしょうか。

どのケースも深刻であり、簡単なものどれひとつありません。問題の内容こそ会社ごとに異なりますが、この点は共通しています。

会社の出口は、とても、とても、大きな影響をもたらす問題でもあります。

その後の会社をどうするか。それは会社の生き死にを決める話です。会社には多くの人が関係しているため、上手くクリアできるか否かが、必然的に大きな影響を与えます。

社長個人にとっても同様です。

中小企業の場合、会社は社長個人と密接にリンクしています。読者の社長の中には、「会社が人生そのもの」という方だっていらっしゃるでしょう。会社の出口問題の成否が、社長の人生を大きく左右することになります。

 

これまでたくさんの廃業や事業承継等の場面と出会い、社長たちと一緒に「どうすればいいか」と考え抜いてきました。いかにすればこの難しく、かつ重要な中小企業の出口問題を乗り越えられるのか。

ここで私が見出したポイントが『廃業』です。

「廃業だと!? ふざけるな!」

廃業という言葉を聞いただけで強い抵抗感を覚える方がいらっしゃるかもしれません。

でも、少々お待ちください。なにも「今すぐに廃業してください」と申しているのではありません。

おわりに向き合い、廃業という着地点を視野に取り入れて出口問題に取り組むスタイルを提唱したいのです。

廃業視点ともいうべきものさしが、中小企業の出口問題を解決することにつながります。しかし、それはあくまでものの見方、考え方であり、実際の結末をどうするかはまた別の話です。

私からの提案の具体的な中身は次章以下にまわすとして、まずは中小企業の出口の状況がどのようになっているか、リアルなところをみなさんと一緒にのぞいてみたいと思います。

 

 

  • たしかに後継者不在による廃業は増えているが……

 

『大廃業時代』

この言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。私が2019年にNHKスペシャルから取材を受けたときのテーマもこれでした。

中小企業で廃業が増えているという表現ですが、数字を見ると実際廃業は増えています。

日本全国の会社数は 社。そのほとんどが中小企業です。そのうち年間 社が廃業しているという統計が出ています。2025年には 万社になっているという見立てもあるようです。

廃業が増えている状況に対して、経済や雇用の観点から「これは大変だ」と国をあげて騒ぎ出しているのが現在です。

会社の出口に頭を悩ませているのは、あなたの会社だけではありません。

 

廃業が増えている原因については「後継者がいないため」と結論付けられています。

たしかに間違いはないでしょう。誰か継ぐ人がいたのならば会社を廃業する必要はなかったのですから。

ただ、この論調に私は違和感があります。

きわめて単純化された見方がされており、後継者がいないんだったら、後継者を見つければいいだけ、という結論になってしまいそうな不安があります。

中小企業の現場を知れば、そんな簡単な問題ではないと否が応でも気づかされます。

後継者がいないのは、それなりの理由がいないのです。なぜ中小企業の後継者がいないのか。さらには、会社経営はどんなじょうきょうになっているのか。ここまで踏み込まなければ、この問題は改善はできないでしょう。

 

 

  • 廃業と倒産は全然違う

 

廃業と似た言葉に「倒産」があります。

実は、廃業は増えていますが、逆に倒産は減っています。

廃業と倒産は、会社の終末という面では兄弟のような言葉です。一般の方からすると、どちらもほとんど同じ意味なのかもしれません。

しかし、現場で助言をしたり作戦を企画している身としては、廃業と倒産では天と地ほどの差があります。

 

今後の議論のためにも、この二つの差は意識しておいてください。

廃業と倒産は、法律用語でもないため、言葉の定義にはあやふやな面があります。この本の中では、ニュアンスやイメージで定義を分けさせていただきます。

廃業は、社長が会社を「自主的に」たたむこととします。積極的な撤退という意味あいがあります。

一方の倒産は、追い込まれて「強制的に」つぶされるケースをイメージとしてください。

飛行機で例えるならば、未来を見据えてあえて着地の判断をすることが廃業。一方で、無理に飛び続けようとして墜落してしまうのが倒産です。ちなみにこの例えにのっとれば、身内に社長を交代する事業承継は、飛び続けながら操縦士が交代するパターンとなります。

飛行機が無理に飛び続けて墜落すれば、たくさんの死傷者が出てしまいます。おなじように、会社も無理をして倒産をすれば取引先や従業員、顧客等に多大なる損害を与えてしまいます。

逆に、着地の仕方を自分でコントロールすれば与える損害を軽減したり、回避することができます。

うまく着地させられるか、墜落させてしまうか。その功罪はダイレクトに社長個人にも返ってきます。

同じ会社の終わりでも、現場レベルでは、廃業か倒産かで大きな差となることはおわかりただたけたでしょうか。

なお、明確に廃業と倒産の線引きができない面があることもご承知ください。

実質的には倒産と言っていいほどの下手な廃業をしている会社があります。逆に、上手に状況をコントロールしながら意図的に倒産(たとえば自己破産の申し立て)をしているケースもあります。

ここでの最後に、倒産が減った理由を考えてみましょう。

・銀行が借金の返済猶予を認めてくれるようになった

・積極的に投資する会社が減った

・手形決済をやめるケースが増えた……など

おそらく、このあたりです。

特に返済猶予の緩和のおかげで、このところ中小企業が延命しやすい状況が続いてきました。本来の資本主義の原理原則からすれば、退場させられていたはずの会社がたくさんフィールドに残っている状況となっています。このあたりの風向きは、だんだんと変わりそうな雰囲気があります。

 

 

  • 大廃業時代の何が問題なの?

 

廃業が増えているということ自体については、私は個人的に特段悪いことだと考えていません。(詳しくは第2章以降で)

社長たちが適切なおわり方を求めて動き、その結果たまたま廃業が増えたのならば仕方がない結果なのです。

調整原理が働くのが資本主義のはずです。

ある事業で雇用が失われても、他の事業に雇用は移るものでしょう。また、一つの会社がなくなっても、別のところで新たな会社が生まれるものだとも思います。風通しが良い環境さえあれば、適正な新陳代謝が生まれるものではないでしょうか。こうして社会の変化に対応していくシステムであるはずです。

ただ、中小企業の出口の現場に目をむけると、このシステムがうまく機能していません。適正な新陳代謝が進んでいません。

なぜなら、中小企業の出口を担っている社長たちが必要な準備や行動をできていないのです。

「(本来出口に向けて進んでいなければいけない状況なのに)停滞してしまっている会社や社長が大量にいる」

これこそが、私が考える大廃業時代の本当の問題です。

最前線で仕事をしている私は、上手に会社を手放せていないことを知っています。なお、すでに廃業している会社であっても「もっと上手なやりようがあった」と思われるケースはかなりあります。

出口を必要としている会社や社長がまだまだ大量に控えています。廃業として数字に表れているのは氷山の一角です。

万社ある中小企業の社長の平均年齢が 歳であることを考えれば、出口問題に向き合わなければいけない会社が相当数あることがわかります。

社長は自社ならびに自身の出口に向き合い、次のかたちに向けて準備し、行動を起こしていなければいけません。しかし、ほとんどが何もしないで、また何もできないで、留まってしまっているのです。

社長たちの停滞は中小企業の出口問題の失敗に直結します。地域経済を担う中小企業なので、出口の失敗は大きな損害を与えることになるのは必須です。

経済的な政策等では、廃業を減らすことを目的とした企画をつくろうとするケースをよく見聞きします。しかしその方向を目指してしまうと、前にも後にも進めないで停滞する会社が今にもまして増えるだけでしょう。経営環境の風通しは悪くなるし、地域経済の活性化は遠のきます。

引退時期を迎えた社長たちにしっかりキャリアをしめくくってもらうことこそが大切です。廃業か承継かというおわりのかたちは問いません。

社長が上手に会社を手放せることが、大きな損害を回避し、できるだけ価値を世に残すことにつながるはずです。

 

 

  • 事業承継って相続税の話なの?

 

「黒字の会社が廃業で無くなってはもったいない」

事業承継問題をめぐる議論ではいつでも語られる常套句です。

中小企業の経営現場を知る方は、この言葉に違和感がありませんか。

実際にはたしかにこんなケースもあるのでしょう。

技術力があって、収益力もあった。でも、後継者が見当たらないため会社をたたまざるを得なかった……と。

しかし、ごく稀なパターンです。

特殊な事例をあたかも一般的なのケースとされては、話がおかしくなってしまいます。

利益は出ないし、借金も多い。

こちらの会社のほうが中小企業のオーソドックスな状況です。統計では「廃業した会社の6割は年間の収支が黒字だった※要確認」というものがあると聞いたことがありますが、正直眉唾です。純粋に黒字だったのではなく、作為的に黒字にしている場合がかなりあるのではないでしょうか。

社長自らがオーナーでもある中小企業ならば、黒字にするために手を加えることができます。そして、黒字でないと融資や入札の件で支障をきたすケースがあるため、無理やりにでも数字を黒字にしようとする会社がかなりあるはずです。

 

私がまだまだ実績も知名度も乏しかったときには、商工会議所や経営支援機関などにセミナー講師をやらせていただけないかと、企画を持ち込んだこともありました。もちろんテーマは事業承継などの中小企業の出口問題です。その際、先方から「事業承継についてはもうセミナーを開催しているから無理だよ」と門前払いをされることがよくありました。

私が提供できる話を他の講師がすでにされているのでは仕方ありません。 しかし、このようなケースで話されていたものは私が伝えようとしていることはまったく別のものでした。

多くは、事業承継セミナーと称し、税理士が壇上にあがり、「中小企業の社長の相続のときの税金は大変ですよ」という話がされていました。

これまでの稼ぎや資産の積み重ねが株式の価値に反映され、結果、相続税が高くなるという理屈です。株価の計算方法も一緒に解説するのがひとつのパターンでしょう。

相続税が大変になるケースは確かにあります。

でも、これまた一部の会社のみに該当する話なのです。

相続税に頭を悩ませなければいけないくらい恵まれた資産をもっている会社ばかりではありません。こういうセミナーに参加したら「あれ、俺には関係のない話だ」とすぐに心が離れ、株価の計算の説明を子守唄としてお昼寝タイムを過ごした社長もいらっしゃることでしょう。

事業承継はどの会社でも問題になるものです。なのに、その対象範囲は暗に一部の優良な会社に限定されているケースは珍しくありません。

そこから漏れてしまっている会社はどうしたらいいのでしょうか。利益が出ていない会社も、借金が積み重なった会社もあります。こんな会社でも上手に着地をしなければなりません。

ついでに言わせていただくと、事業承継については税金や法律、補助金などの枝葉のテーマばかりに話が終始する傾向もあります。

私たちには、もっと本質的な、すべての社長に共通する考え方やセオリーが求められているような気がしてなりません。

一部の特殊なケースや部分的な議論は一旦脇に置いて、私たちは着実かつしたたかに自分なりの出口を作っていきましょう。

 

 

  • 稼げない、会社を継ぎたがらない……世界はすでには変わっている

 

「昔はいくらでも仕事が降ってきて儲かりましたよ。だから会社でクルーザー持っててね。仲間と昼間から船の上で酒飲んで、それは楽しかったなぁ」

過去を懐かしんで顔をほころばせる社長。

しかし、業績はもう瀕死の状況。赤字が続いているし、資金繰りを工面しようにももう銀行もお金を貸してくれません。この世の春を謳歌していたときには、こんな状況がやってくるとは夢にも思わなかったでしょう。

ビジネスの世界の環境は早く、大きく変わってしまいました。ここでいちいち例を挙げるまでもないでしょう。

これからもどんどん変化していくはずです。

人々のライフスタイルや価値観も変わりました。

こちらは同じ商品やサービスを提供し続けているのに、顧客のほうが変わってしまったというケースもあります。

後継者問題でもそう。

むかしは、子供が親の家業を継ぐのが当然でした。しかし今は、「サラリーマンや公務員のほうが安定していて、土日も休めていい」とか。

従業員に継がせる場合でも同様です。

かつてならば会社の社長になれるなんて夢のような話だったはず。なりたくてもなれない高嶺の花だったのでしょう。

しかし今となっては、「会社継ぐ気あるか?」と問えば、「いえ、給料は払うより貰うほうがいいので、遠慮させていただきます」と。

世の中全体が安定志向になり、リスクを嫌う傾向になってしまっています。

中小企業が置かれている世界は動き、変わっています。

その出口を担う私たちも、変わらざるを得ません。柔軟に対応していかなければいけません。

 

 

  • M&Aはみんなを救わない

 

ちまたの事業承継ガイドのようなものを読むと「後継者が社内にいなければM&Aです」と書かれています。

これも鵜呑みにしてはいけない話だと思っています。

後継者がいない会社は、はたして他社に買ってもらえる可能性はどれほどあるでしょうか。「継ぎたい」と思ってもらえない会社です。

冷静になって考えてみると、そんなに可能性が高い話ではない気がしませんか。

でも、関連業者は売り込んできます。

「M&Aでハッピーリタイアなんて最高ですよ!」と。

彼らのビジネスモデルはとにかく案件をいっぱい集めて、売れるところから売ればいいというものです。全部の会社を救う必要はありません。語弊がありますが、良い話だけをしていればいいのです。

私たちとしては、こんな相手の本音も意識しつつ、あくまで一つのツールとしてM&Aには接したいところです。

過度な期待をすべきはありません。「最悪会社は売ればいいんだろ」なんて甘く見るなんてとんでもない。まったくもって最悪でなんかありません。もしお金を出して買ってもらえたならば、経営者として誉れと思ってもいいでしょう。M&Aという出口を望んだところで売れない会社はたくさんあります。

最近の私の相談事例では、M&Aで買い手を探したけれど売れなかったというケースが増加傾向にあります。

M&Aについて中小企業の出口として否定はしません。売っておわれるのは、きれいな終焉です。

しかし、どの会社でも救ってくれる魔法のように思うことには警鐘をならします。

最近では、経営指導やサポートを行う公的な立場の機関などまで、この「後継者がいなければM&A」という単純な論調に乗っかってしまっている感があります。そんな甘いものでじゃありません。

もし上手く買ってもらえたらラッキー(だからチャレンジする価値はある)。しかし、成功しない可能性も高いからダメだったときを十分想定しておく。

社長には、これくらいのスタンスでM&Aに接していただきたいところです。

 

 

  • 最後までお山の大将たれ

 

M&Aをはじめとする承継至上主義ともいえる立場をとる人が増えてきた感じがしています。「とにかく廃業はダメだ」と。とくに、現場をさして知らないのに、事業承継等に関わるようになった人に多いようです。

「ウチは廃業してはダメなんでしょうか?」

ホテルのラウンジで、都内で仕事をしているある社長から相談をもちかけられたことがあります。

会社は利益が出ているし、ルーティーンの業務なので売上も安定しています。

ただ、社長としては将来の雇用確保に不安を感じています。会社存続のためにM&Aでどこかに引き取ってもらうことへの抵抗感もあります。別にこれ以上お金を追いかけることもしたくなりから、自分の手で会社に終止符を打って終わらせたいと願っているのでした。

こんな相談を顧問税理士にしたら「もったいない。どうかしている」と批判されたそうです。また、銀行の担当者と話をしたときも「M&Aしましょうよ!」と。

とにかく誰に相談しても、会社を続けることか、少なくとも他社へ譲ることを強要されます。なお、相談した面々は、会社が続いたほうが何かしらの利益を得られる人たちだということは指摘しておきましょう。

誰の話を聞いても腑に落ちず、私のところに声をかけてきてくれたそうです。誰も自分の気持ちを分かってくれないと、落胆されていました。

 

この手の相談がきたとき、私の回答はだいたい決まっています。

「好きなようにしたらどうですか」

突き放しているようですが、こうとしか言えないのです。

意思決定の補助はできますし、決めた方向性のゴールまでガイドすることもできます。しかし、意思決定そのものは社長にしかできません。

外部の人材である私に、続けろとか、止めろという権利はありません。あなたの人生について責任を持つことまではできないのですから。

自分が進みたいと思う方向に決断していただくしかありません。

もちろん私の中には個人的な価値観があります。できることなら事業を世の中のために残してもらいたいと思います。しかし、個人の価値観を強要するようなことはされたくないのと同様に、相手にもしないようにしています。

社長たるもの自分の道は自分で決めるしかありません。たとえそれが間違った道だったとしても、自分でその責任を負う生き方を選んだはずです。

 

結局、どの道を選んだほうがよかったかなんて、後になってみなければわかりません。もしかしたら、ずっと正解は分からないのかもしれませんね。

だから納得して進んでいくことが何より大切だと考えます。

世間体などを気にして不本意な選択をしたら、どこかで後悔することになるだけでしょう。主人公たる社長の本心が伴っていなければ、やり遂げるためのエネルギーだって欠けてしまいます。

中小企業の社長をしてきたあなたは、本来、頑固で自分勝手な人ではないでしょうか。好き勝手やって生きてきた方がほとんどのはずです。そうでなければ、会社をここまで引っ張ってこれてはいないでしょう。

お山の大将として、最後の場面もわがままを通していいのではありませんか。いや、最後だからこそわがままを通してもらいたいと願います。

 

 

  • 「未決断には天罰」の法則

 

M&Aなのか廃業なのかという出口のかたちが問題なのではなりません。社長自らがしっかり決断し、進んでいくことこそが大切なのです。

決断を避け、問題を棚上げしてやり過ごしたとしても、たいていは時間と気力を無駄に浪費しまうだけです。

決断をしないと、不思議と嫌なことが起きてしまいます。

会社をたたむという話であったり、社長の椅子を次に譲るという話であったり。きっちり決断をしなければいけない場面にさしかかっているとします。社長本人もそれは分かっています。

でも……。

面倒くさくなったり、未練がましくなったりで決断をさきのばしにすると、そこで何故かトラブルを引き寄せてしまうことが多くあります。従業員が不正をしたり、現場で事故が起きたり、と。

一度は断固として会社をたたむ方向に気持ちが傾いたのに、新しい仕事の話が舞い込んできたため決断を先伸ばした建築会社の社長がいまいた。やっぱり、仕事もお金も好きなのです。

しかし、その仕事のさ中、現場の作業員が大きな怪我を負ってしまう事故が起きてしまいました。

個人的にも苦い思い出があります。

少々不動産大家業にも手を出していたのですが、なんとなく手を引かなければいけないと感じる賃貸物件がありました。しかし、仕事も忙しいこともあり売却に手を付けないまま放置をしてしまっていたのです。家賃は入ってきていたのも決着をつけない要因だったのでしょう。

すると。めったにやってこないレベルの台風に見舞われました。

私の物件は瓦屋根をまき散らし、周囲の住宅に損害を与えてしまいました。その中には少々ややこしい方が住んでいらっしゃる家もあり、ご近所トラブルにも発展……。

「あぁ、さっさと売っておけばよかった」と泣き言を漏らしながら対応に追われました。

あたかも覚悟がなかったり、後ろ向きな気持ちで事業に臨む姿勢を神様から戒められているような気さえします。

逆に、結果が良かったお客様もいらっしゃいました。

貿易の仕事をしていた会社でしたが、社長はさんざん悩みながらも自らの手で廃業させることを決断。その報告を海外の協力工場にすると

「そうでしたか。実はうちの工場も閉鎖することが決まっていて……」と。

しかも2つあった主な協力工場の両方が同じタイミングで閉鎖を決めていたそうです。

もし決断をしないでダラダラと続けていたら、国内の顧客への供給責任を問われ窮地に立たされていただろうと社長は語っていました。

こちらの場合はちゃんと決断した姿勢を、神様が評価してくれたような気がします。

本当に科学的根拠もないスピリチュアルな話で恐縮ですが、こういう傾向はたしかにあると確信しています。

自分でしっかり決断することが大切です。

「ちゃんとケジメをつけろよ」と、神さまは言っています。

 

 

  • 事業承継の専門家はいない

 

多くの社長が出口の前で立ち止まってしまっていることが、昨今の中小企業における一番の問題です。おわり方を良きものにできるか否かで、次の社会の様子は大きく変わってしまうような気がしています。

誰かが水先案内人となって導ければいいのですが、専門家等はどうも十分に機能していないようです。ミスマッチが起きています。

なお、この問題については「社長が聞く耳を持ってくれない」という声も周囲からあがっていますので、それは先にお伝えしておきましょう。

さて、専門家のお話です。

資格を持つ○○士をはじめとする専門家は、知識や情報、技術の提供を自分の役割と認識している場合が多いでしょう。しかし、事業承継等の中小企業の出口問題については、それ以前の気持ちの整理や判断の時点で引っかかっている場合がたくさんあります。

たとえば「心情的には長男を社長にしたいのだが、次男のほうが人望はあるし…‥‥」と社長が悩んでいたとします。この悩みに対して、知識等提供型の仕事スタイルでは対応できません。

(だからといって、「やっぱり後継者には年長者を立てるべきですよ」と、思いつきで軽はずみに答えるような人間はもっと迷惑な存在だったりしますが)

社長は、知識の提供ではなく、一緒に考えてくれる人、思考を整理してくれる人を求めていたりします。対する専門家と称される人は、自分が求められていることを捉えられていない場合があります。

ここにミスマッチが生じています。

別のミスマッチもあります。

専門家は断片的に情報を提供するということです。全体像を見据えたうえで必要な情報を提供してくれるのではありません。すると最初から枝葉の話に終始して、本質的な議論が進まなかったりしがちです。

通常、依頼主たる社長にとって、会社の出口ははじめて経験する場面です。全体像が見えているわけではないのですから、断片的な情報ばかりを投げられても整理はできません。

ミスマッチはなぜ起きるのか。

会社の出口問題についての専門家はいないためです。

仮に専門家(または専門業者)を名乗っていたとしても、ふたを開ければM&Aの仲介をしている業者とか、税務上の株価を計算する税理士とか、部分的な役割をだけを担っているケースばかりだったりします。

会社の出口問題には、法律や財務、税金の話が関わります。さらにはマーケティングなどの経営に関する話も加われば相続や不動産にも話が及びます。しかし、従来の資格制度は縦割りにできているため、その職能だけではカバーしきれない面が出て当然です。

あなたには、この傾向を知っておいてもらいたいところです。資格の看板だけで判断してしまうと思わぬ痛い思いをしかねません。

現状では、中小企業の出口問題の全体像を視野に入れて、社長の参謀やガイド役を果たしてくれる人はほとんどいないと思われます。

本書がみなさまの水先案内人となるべく、出口にむけた土台となる考え方や心得をお届けできることを願っています。

 

 

  • 社長が亡くなった⁉ そのとき会社は……

 

中小企業の出口には、会社を誰かに継がせるのか(売るのか)、もしくは、たたむのか。これくらいのパターンしかないとあなたは思っているかもしれません。

しかし、社長の相続発生というパターンの出口もあります。

「社長が急に亡くなりました。取引先の支払いができません。どうしたらいいのでしょうか。私たちの給料も払ってもらえていません」

こんな切羽詰まった相談がよせられることも結構あります。会社を手放す前に社長の命が尽きてしまったということです。

 

未来の会社の出口を検討する際には、相続発生も十分起こり得ることだと警戒をしておいていただきたいところです。

社長が急死するパターンの場合、より悲惨な状況を招きやすいものとなっています。会社が操縦士たる社長によるコントロールを失ってしまうのですから当然と言えば当然でしょう。

中小企業の場合、社長自らが株主であり、相続手続きの流れ次第では次の社長を選べない状況になることもあります。

業務面で社長しかわからないこと、できないことがあって、社長の死亡により会社の機能がマヒしてしまうケースもあります。

会社の借金の連帯保証があるので、うっかり亡き社長を相続をした家族が会社の借金を肩代わりさせられて苦しんだケースもありました。

相続でむかえる会社の出口は褒められたものではありません。社長には、あくまでご自身の目の黒いうちに決着をつけていただきたい事柄です。

社長の相続まで会社の出口問題を引きずってしまうと、解決の難度が格段に高まり、損害をまき散らすことになりがちです。

会社はデリケートな生き物です。しっかり操縦できるうちに決着をつけることが原則です。

しかし、神様の意地悪によって、社長が在任中に相続が起きてしまう可能性はあります。運命に私たち人間には抗えません。

できることといえば、相続が起きることまで意識し、十分に対策を講じておくことだけです。

 

 

  • 『廃業』がうまく切り抜けるためのキーワードに

 

第一章はここまでです。

会社の出口問題をめぐる状況から、私が現場の仕事で気づいたことや得た教訓のようなものをご紹介させていただきました。

繰り返しになりますが、会社の出口は超重要な課題です。そして、とにかく難しいテーマでもあります。

一方で、出口に起きる問題はあらかた予想がつくので、十分な対策を講じ、決着をつけることが可能です。

また、会社の出口は100%やってくる未来でもあります。だから「せっかく対策をしたのに無駄になった」となることはありません。

確実に起きるうえ、とても影響は大きい。こんな課題についての対策なので、コストパフォーマンスは抜群ですね。

 

「俺、はじめて社長らしい仕事をしている気がする」

かつての顧客の社長は、廃業に取り組みながらこんな感想を漏らしました。

会社を続けるのか、たたむのか。

社長を他者へ譲るのか。

これ以上に重たい経営判断はありません。

判断を実行することになれば、しんがりという大役が待っています。

難しさといい、影響の大きさといい、まさに『社長の仕事』なのでしょう。

会社の出口問題の解決という難敵を前に、私たちはいかに立ち振舞えばいいのか。

まずベースとなる考え方について、次章でお伝えいたします。

キーワードは『廃業』です。

 

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事業承継の『経営者保証に関するガイドライン』をぶっちゃけ解説

「中小企業の社長の高齢化が止まらず、事業承継が進んでいない。その原因のひとつは、借金の個人保証によるものだ」

このような論点で、「経営者保証に関するガイドライン」において事業承継に焦点をあてた特例が作られました。

事業承継デザイナーの奥村聡の目線で解説してみましょう。

 

『経営者保証に関するガイドライン』は、本当のところ使えるの!?

「経営者保証ガイドライン」の活用で、要件が整えば“事業承継時に保証を解除出来る可能性がある”ということです。

奥歯にものが挟まったような言い方をしなければいけないのは、あくまで「経営者保証ガイドライン」は法律ではないということです。

債権者に対する強制力はありません。

 

お上は、ガイドラインを使って後継者の個人保証が免除されれば、ちまたの事業承継がより進むという思惑なのでしょう。

ただ、本当にそうなのでしょうか。

私の知る限りでは、このガイドラインに該当するケースで「後継者が個人保証さえ追わなければ事業承継が進んだのに・・・」といったケースはほぼありません。
(このありは後述します)

 

一方で、金融機関に対しては効果を生むかと期待する面もあります。

金を貸しているという立場を使って「そりゃないだろう」という条件を提示されたことが過去にはありました。

後継者の信用力不足を理由に、先代の保証を外さなかったり、過度な担保を取り続けたり・・・

こんな不合理の是正につながるとありがたいところです。

 

「経営者保証に関するガイドライン」×実務家目線

「経営者保証に関するガイドライン」の中身に切り込んでいきましょう。

とはいっても、ここで制度の内容をすべて解説することはいたしません。

もし制度の中身を正確に知りたい方は、経営者保証に関するガイドライン研究会によるレポート『事業承継時に焦点を当てた 「経営者保証に関するガイドライン」の特則』などを参考にしてください。

この記事では制度そのものの紹介は簡単済ませ、そのうえで実務家目線での解説をさせていただきます。

要は、本当のところ使えるの!?です。

 

経営者保証解除の要件

まず「経営者保証ガイドライン」の事業承継時の特例に提示されている、経営者の個人保証の解除の要件を押さえてみましょう。

事業承継時に、経営者保証を解除する為に必要とされる経営状態の要件が「経営者保証ガイドライン」に3つ提示されています。

①法人と経営者(個人)との関係の明確な区分・分離
②財務基盤の強化
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保

分かるような、分からないような・・・という感じだと思われます。
もう少し具体的に見て行きましょう。

 

「①法人と経営者(個人)との関係の明確な区分・分離」

まず、「①法人と経営者(個人)との関係の明確な区分・分離」です。

もともと個人保証の商慣習がはじまった理由のひとつに“中小企業の社長は会社の金を好き勝手にできる”というものがあったはずです。

お目付け役はほぼ存在しないも同然です。

社長がその気なれば、会社の金を自分に貸して、その金で遊ぶこともできます。しかも、その財源は銀行からの借金だったり、と。

このように、中小企業では個人としての社長と会社との境界が不明確になりやすいところです。

個人保証は、銀行が社長につけた首輪という意味合いがありました。

要件①は、「会社と個人を明確に線引きをしない限りは個人保証を外すことなんてできませんよ」という意図となります。

 

「②財務基盤の強化」

次に、「②財務基盤の強化」です。

要は、「十分に今の借金を返せないようならば個人保証を外すことはできない」という意味です。

この要件を満たすには、借金に対して十分な資産を有していること。

利益が出ていて、金融機関の定める約定返済をクリアできる見込みがあることなどが求められることになるはずです。

場合によっては担保力も見られるかもしれません。

 

逆に「②財務基盤の強化」の要件を外しているケースを考えてみれば、より分かりやすくなるでしょう。

たとえば、「債務超過」。

資産よりも負債のほうが大きくなってしまっている会社は、財務基盤が弱いと判断されることでしょう。

また、返済猶予、いわゆるリスケジュールを受けている会社もダメだと思われます。

要件②は「借金をちゃんと返せる状況ならば、社長(後継者)の個人保証がなくてもいいよ」という意図になります。

 

「③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保」

最後は「③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保」です。

オープンに情報を開示する姿勢と、それを可能にする財務管理システムが構築されていることが要件となるのでしょう。

「経営者保証ガイドライン」では、上記の3つの要件が揃っている場合、社長の個人保証を外せる可能性があるとなっています。

また、制度を機能させる仕組みとして「経営者保証コーディネーター」という専門員が用意され、相談に乗ったり、金融機関との話し合いに同席してくれたりするようです。

経営者保証コーディネーターが関わるものについては、信用保証制度の保証料の軽減も受けられる、ということにもなっています。

 

 

「経営者保証ガイドライン」を現実的に考えてみる

さて、ここまで「経営者保証ガイドライン」をざっくりご説明してみました。(かなりおおざっぱな説明でしたので、興味がある方は原文にあたってください)

この先は、この分野の現場の実務家として思うところ、危惧するところを書き出してみたいと思います。

「経営者保証ガイドライン」の利用の是非についての参考になれば幸いです。

 

所詮、ガイドライン

「経営者保証ガイドライン」は文字通り“ガイドライン”です。

強制力を持つ法律ではありません。

となると、効果を鵜呑みにしないほうが身のためでしょう。

 

この話を進める前に、個人保証に関して金融機関が置かれている立場をお話しさせていただきたいところです。

実はすでに、金融機関に対して『二重保証』が原則禁止されています。

 

かつては、事業承継のタイミングで、先代社長と後継者の2人の保証が取られることがありました。

後継者に信用や担保力がないため、一線を退いた社長の担保を銀行が外そうとしなかったのです。

しかし、保証が残るようでは引退した社長は気が休まりません。

「保証が切れないのだったら社長は辞められない」という経営者が出現しても不思議ではないところ、そうなると事業承継の循環を阻害しかねません。

 

金融機関に対して、やり過ぎだという批判があがりました。

優位な立場の濫用です。

そのような経緯で、銀行は原則1人しか保証人をとれないということになったのです。

 

ついでにお話すると、銀行が第三者保証人をとることへの風当たりも厳しくなっています。

第三者保証人とは、経営に関与していないのに借金の保証だけをさせられる人です。

会社の借金を保証するメリットもなく、あまりに酷な立場でした。

それはひどいということで、こちらも批判の対象となったのです。

 

もし、社長が事業承継を済ませて引退すれば、第三者となります。

すると、銀行としては先代社長に借金の保証をさせ続けることが難しくなります

もちろん第三者保証人になってしまうからです。

 

話を整理してみましょう。

・銀行は一人しか保証人を取れない

・しかも第三者に保証させることは困難

すると、事業承継後の保証人は、基本的に後継者しかなり得ないということになります。

 

このベースがあるうえで、さらに「経営者保証ガイドライン」では、後継者の保証すら外せと要求しています。

これが銀行にとって簡単に飲むことはできる条件なのか、想像してみてください。

私が銀行サイドの人間ならば「そこまで譲歩させられなければいけないのか」と遺憾に思うことでしょう。

 

ここまで考えると、「経営者保証ガイドライン」に定められているからと言って、簡単に保証が外れるものと高を括るのはあまそうな気がしてきます。

制度のパンフレットには「事業承継時の経営者保証を不要とする新しい制度ができました。」と大々的にキャッチコピーが載せられていました。

こんなに言い切っちゃって大丈夫なの?と、こちらが不安になります。

ちなみに、パンフレットの別のところにすごく小さな文字で「※経営者保証解除に関する最終的な判断は、金融機関となります」と責任逃れの文言もしっかり載っております。

 

所詮、「経営者保証ガイドライン」はガイドラインなのです。

あまり過信してはいけないということでしょう。

 

 

経営者保証コーディネーター関与による懸念

経営者保証ガイドラインを運用するために、経営者保証コーディネーターの関与が想定されています。

想定どおりに事が進めば一定の効果を発することでしょう。

でも、悪い方向に作用する懸念もあります。

 

おそらく、保証外しを要求する前に、コーディネーターの指図により事業承継計画や事業計画を作らされることになると思います。

往々にしてこの手の取り組みでは、時間を無駄にさせられます。

形式を合わせるためだけに、数字合わせの計画書を作ったらされたり、報告等の事務作業に忙殺されたり・・・

『時間』という補充の利かない重要資源のロスを甘く考えてはいけません。

計画も本気で作れば価値がありますが、魂のないものに手間を掛けさせられている場合ではないのです。

 

また、銀行の立場になってみましょう。

経営者保証コーディネーターが突然横から入ってきて、「保証をはずせ」と要求されることになります。

不愉快な思いをさせることになり、下手を打てば、どこかでしっぺ返しをくらうことにつながるかもしれません。

銀行との付き合いは、保証が外れたら終わりではないのです。

それを、過去のいきさつや、今後の銀行取引に興味のない者の介入で、波風が立てさせられるケースを危惧します。

「経営者保証コーディネーターを連れてくる前に、先に相談してくればいいのに・・・」

これが銀行の本音だったりするのではないでしょうか。

 

ガイドライン無しでも保証は外せる!?

もしかしたら勘違いされている方がいらっしゃるのかもしれませんが、この「経営者保証ガイドライン」がないと社長の個人保証は外せないというわけではありません。

任意で、双方の合意をもって個人保証を外すことは可能です。

現に私のクライアントの会社でも、「経営者保証ガイドライン」が制定される前に保証外しに取り組み、成功してきたケースがあります。

 

となれば、「経営者保証ガイドライン」を使わないで、個人保証をはずす試みも一案だと考えられませんか?
普通に債権者たる銀行に、「うちの会社は事業承継を進めるんだけど、後継者の保証は免除してくれない?」と相談を持ち掛けるのです。

あくまで任意の話し合いというスタンスです。

「経営者保証ガイドライン」は手持ちのカードです。

カードの存在をちらつかせてもいいのですが、話し合いによる合意を引っ張り出すことが狙いです。

この方法ならば、経営者保証コーディネーターに状況を乱されることがなくなります。

無駄な事務作業に時間を取られることもありません。

銀行サイドからしても、経営者保証コーディネーターに関与されるより、柔軟な対応ができるはずです。

もし、これでダメなときは、本当に「経営者保証ガイドライン」を使えばいいでしょう。

根回しをしたのだから、失礼にはあたらないはずです。

 

おそらく事業承継の促進をもたらさない・・・

後継者の個人保証を外せる場合の要件をもう一度見てみてみましょう。

要は「会社と社長個人の分離ができていて、会社として借金を十分に返済できる力があるならば個人保証を外してもいいよ」ということです。

後継者の立場で考えれば、こんなコンディションの良い会社ならば、継いだところでなんの問題もないはずです。

そのうえ、保証まで免除してもらえるとなれば・・・かなり甘やかしてもらっていると感じなくもありません。

 

私が、この制度が事業承継の促進にはあまりつながらないと考える理由はこのあたりにあります。

良いコンディションの会社なんだから、後継者が継がない理由はないわけです。

もし、そんな状況なのに「個人保証が不安だから・・・」といってためらう後継者がいるのならば、覚悟がなさすぎます。

経営なんてやめてほうがいいでしょう。

 

もともと継がれるべき会社なんだから、こんな制度を改めて作ったところで、成果に差はほとんどでないはずです。

あるとしたら、「せっかくだし事業承継のタイミングを早めようか」というくらいではないでしょうか。

 

会社と社長が切り分かれていて、借金返済に問題がない会社だということは、個人保証がそもそも不要だったという意味です。

保証が不要となるのが当然であり、その当然を「経営者保証ガイドライン」がわざわざ明文化しただけだとも言えます。

 

要件に当てはまらない会社はどうするのか?

本当に事業承継の問題が切実な会社は、この「経営者保証ガイドライン」の要件に該当しない会社です。

借金が大きすぎたり、返済可能な利益を出せていなかったりする会社です。

事業承継を考えなければいけない中小企業には、こちらの会社のほうがきっと多いことでしょう。

こちらのタイプの会社の場合、継ぐかあきらめるのかの判断を慎重にしなければいけません。

仮に、チャレンジする場合には相当工夫をしなければいけません。

下手を打てば、会社ともども後継者は地獄に堕ちます。

本来助けが必要な会社にとって、「経営者保証ガイドライン」が実は何の助けにもならないというジレンマがあるのです。

 

全体的な視野を忘れずに!

以上、事業承継にまつわる「経営者保証ガイドライン」について思うところを好き勝手に書かせていただきました。

最後に注意を喚起したいのは、社長の個人保証の問題は、全体から見れば部分的な問題に過ぎないということです。

事業承継を含めた会社の着地問題を攻略するには、全体を考慮した上での根本的な解決策が求められます。

そういった意味で、「経営者保証ガイドライン」は道具のひとつでしかありません。

過度な期待をして落とし穴にはまらないようにしないようにしていただきたいところです。