奥村聡(事業承継デザイナー)
NHKスペシャルで「会社のおくりびと」として取り上げられた奥村聡が現場で培った経験を元に話します

住宅ローンや借金が返済できなくなったときの『任意売却』

 

私のお客さんトの会社では廃業を進めています。

もともと借金が積みあがっていたところで、
取引先の倒産により売掛金の回収までできなくなりました。

やむを得ず廃業することになったのです。

 

銀行から、会社の本社と社長の自宅を
『担保』に取られていました。

しかし、不動産の時価は合わせても5000万ほど。

1億4000万円ある借金は返しきれません。

こんな、不動産を売っても借金を返済しきれない場合、
どうすればいいのでしょうか?

なお、社長だけでなく、個人の住宅ローンでも
同様の問題にはまってしまうことがあり得ます。

 

そもそもの法律的な話

住宅ローンなどを組むと、銀行は抵当権などの担保を設定します。

これは約束通りの返済をしないとき、
競売を裁判所に申し立てる権利が銀行にあることです。

この点、返済に行き詰ったときに
「不動産は銀行にあげてしまえばいい」なんて
ことをおっしゃる相談者もいますが、
これは少し間違っています。

銀行は、不動産は要りません。

あくまで不動産を売って、借金を回収したいのです。

 

自宅を競売にかけられると、
見覚えのない人間が現地をフラフラしはじめます。

競売に興味を持ち、物件の品定めをするのです。

精神衛生上よくないですね。

 

そして、当然自宅を強制的に奪われるデメリットがあるはずです。

家族などにも迷惑をかけてしまうかもしれません。

それが気がかりで、
これまで行動に出られなかった方もいることでしょう。

どうにかならないのでしょうか。

後述する「任意売却」「サブリース」を組み合わせることで、
自宅を残せることもあるのです。

 

任意売却が成立する余地

月々にのローンの返済等を無視していれば、
いずれ銀行は競売にかけてきます。

銀行としては強制的に回収するしか手がないのです。

 

もう一方で、債権者である銀行と債務者である所有者が
協力して不動産を売る道もあります。

『任意売却』と呼ばれるものです。

 

本来、不動産は担保を消さなければ売れません。

不動産取引の大原則です。

そして、債権者が担保を消すのは、
借金を返してもらったときです。

だから、借金を返済できない今回のようなケースでは、
不動産が売れないのが原則なのです。

なのにどうして、不動産が売れる可能性があるのでしょうか?

それは、競売は銀行にとってもデメリットがあり、
裁判所が関与しないで売れれば
よりメリットが大きくなる場合があるからです。

 

競売における銀行の不都合

返済不能や廃業となると、銀行にとっても非常事態です。

全額回収にこだわっていたら、
競売しかなくなってしまいます。

では、競売の申し立て費用は誰が負担するのでしょうか。

裁判所はただで競売をやってくれるわけではありません。

そしてその費用を負担すべきなのは
申し立てをする銀行です。

 

また、裁判所の競売手続きを行うと、
決着までに時間がかかります。

競売ともなると、
「銀行に自宅を追われた」と悪い評判が立ちやすいもの。
そして、競売という特別な方法になるので、
売却価格が普通に売るよりも
下がってしまう傾向があるのです。

普通の不動産取引のように一般にオープンにされるケースと比べ、
競売ということで買い手の間口が狭まってしまうためです。

みなさんでも
「競売物件を落札しますか?」と問われたら
腰が引けてしまう方が多いことでしょう。

司法書士をやってきた私でも、
自分では競売物件を買いたいとは思いません。

 

これらのような競売のデメリットが銀行に課されるのです。

その反動で
「ならば、所有者に普通に売ってもらいたい」
というニーズが銀行に生まれてきます。

普通に時価で売ってくれるなら、銀行は不動産売却に協力しようとします。

たとえ借金を全額回収できなくても、です。

これを任意売却と呼んでいるのです。

 

任意売却をする所有者のメリットは?

任意売却といっても、表面上は普通の売却とかわりません。

不動産の買い手を見つけて、お金をもらって所有権を譲ります。

ただ、売却代金で借金を返済しきれないだけです。

 

こんな任意売却ですが、
不動産の所有者がのメリットはどこにあるのでしょうか?

銀行に協力してあげるだけでは面白くありません。

 

まず、競売よりも高く売れるメリットがあげられます。

結果的に返済が多くできるので、借金が減ります。

ただし 「どっちにしても返しきれない額の借金が残る場合」
はあまり意味がありません。

残った借金は破産するのならば、
多く返済額が減ったところで
意味がないというのが正直なところです。

 

メリットは別のところにあります。

まず、銀行の債権回収額のアップに協力してあげる見返りとして、
引越し代などがもらえる場合があります。

物件を明け渡したくても、移動させる費用を出せないとなったら
せっかくの任意売却が不成立になってしまいます。
また、先述のように競売では素性のよくわからない人間が
現地を見に来たりすることがあります。

でも任意売却は、外から見たら普通の売買なので、
そんな混乱はありません。

 

銀行との関係は、任意売却に協力してあげたほうがいい場合もあるはずです。

不動産を手放して 残った借金を分割で払いたい場合などは、
先方も任意売却への協力を評価してくれるかもしれません。

 

さららに、任意売却とサブリースを組み合わせることで、
自宅にそのまま住み続けるメリットを受けられることもあります。

 

サブリースで自宅に住み続ける

所有者が自宅に住み続ける希望をもっていないのならば、
任意売却で引っ越し代をもらって
別の家に移るなりすればいいでしょう。

しかし、多くのケースでは「自宅を失いたくない」と思っているものです。

そんなとき、もし自宅等の買い取りに協力してくれる人がいれば、
自宅に住み続けられるかもしれません。

 

これまで語ってきた任意売却において、
その買い手が所有者とつながりのある人だったらどうでしょうか。

たとえば、所有者に協力してくれる友人だったとします。

友人がどうにか資金を調達してきて、不動産を買い取ります。

そして買ったあとに、元の所有者に貸してあげます。

こうすれば元の所有者はそのまま自宅に住み続けられることができます。

近所の人から見ても、外見上は何も変わっていないのです。

 

これを「サブリース」と呼んでいます。

もし所有権も取り戻したいならば、
いつの日か友人から再び買い取ればいいのです。

銀行がそんな取引を認めるのか、と
疑問を持たれる方がいるかもしれません。

しかし、銀行とすれば
本来売れるべき値段で不動産が売れればいいのです。

また、買主と元の所有者の関係までは分かりません。

ただし、もし買主が所有者と近い関係だとわかってしまう場合は、
銀行が任意売却をOKしないこともあります。

コンプライアンス上の問題なのでしょう。

 

サブリースを使える条件がそろうのは簡単ではないかもしれません。

もし幸運にもそれが使えれば、自宅を守れるケースがあるのです。

 

プロフィール

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は850社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられたコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
興味いただけた方は、リンク先もお読みください。