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そろそろ事業承継や引退を考えたいが、何から手を付けたらいいかわからない

目次

上手に社長を辞めるための3つのポイント

会社なんて最後は誰かに継がせるなり、後継者がいなければM&Aで売ればいい。

最悪たためばいいだけじゃないか。

事業承継が進まない原因は、社長が身を引く決断をしないからではないか。


事業承継や廃業などの会社のケジメについて、あなたはこう思っているかもしれません。

しかし、あらゆるタイプの会社と社長の幕引きの相談を受けている私、事業承継デザイナー奥村聡の現場感覚は違います。


前にも、後にも進めない状況に陥ってしまっている社長が、実はたくさんいます。

「本当はもう社長を辞めたいのだけれど、問題があってやめられない。

そのため苦しみながら経営を続けている・・・」

こんな厳しい立場に追い込まれていたりするのです。

中小企業のオーナー経営者の末路には何が待っているのか。

その全体像とその成功のポイントをお伝えします。


事業承継や廃業等へ具体的に取り組む前に押さえたいポイントをお伝えします。

「社長を辞めたい」「そろそろ引退を」と考えはじめたら最初に読むべき記事です。



上手に社長を辞めることは、難しい

吉田社長(仮名)は、もうボロボロだ。

明らかに顔色は悪く、視点は定まらない。

年齢はもうすぐ75歳を迎える。

「それでも社長は辞められない」と、本人はつらそうに語る。


会社を継がせる人間はいない。

もし会社をたためば借金が残って、自宅を銀行に取られると思っている。

50歳以上の従業員ばかりだから、これから転職して新しい会社を見つけることも厳しい。


利益は出せなくなり、借金が増えた今となっては、引き取ってくれる会社もないだろう。

酷な言い方にはなるが、吉田社長は撤退のタイミングを逃してしまった・・・


こちらは実際に私が相談を受けたことがある社長がモデルです。

まさに、前にも後にも進めなくなって社長を続けさせられている、という例ではないでしょうか。

会社の着地を考えず、ただ漫然と続けてしまうと穴に陥ってしまう恐れがあります。

津崎社長(仮名)は、ことあるごとに「あのとき売っておけば」と愚痴をもらす。

かつて、М&A会社から「1億円以上で会社を売れる」と言われたことがあったそうだ。

しかし、私に相談に来た時呼ばれたときには、すでに状況は悪化し、会社は火の車だった。

打合せをしている最中も、過去の栄光にすがり「あのとき売っておけば良かった」と何度も口にした。

だったら、なぜそのとき会社を売らなかったのか?

ここまで状況を悪くする前に手を打たなかったのか?

きっと、欲をかいてしまったのだろう。

そして『おわり』というものに真正面から向き合うことがなかったのだろう。


いつか、社長を辞めなければいけない。

いつか、いかなるかたちでか会社を着地させなければならない。

この意識があればもっとうまく終えることができたのでしょう。

しかし、この社長は底なし沼にハマってしまいました。


ちなみに、M&A会社が言った「1億円以上で売れる」という発言は、私は眉唾だと思っています。

とりあえず高い値段を提示して売却に動かさせるのは、業者の営業テクニックだったりするので。

それでも誠実に売却に動いていたら、こんな状況になることはなかったことでしょう。

河村社長(仮名)は、突然会社を廃業させた。

しかし、番頭の立場の人間は「まだまだ続けられたはずだ」と無念さを露わにする。

取引先からも、驚きと惜しむ声があがる。

そのなかの1社からは「なんとかウチに事業を買わせてほしい」と要望があった。

しかし、廃業に動き始めてしまったため、継続困難なレベルまで事業は棄損してしまった。

利益を出せる目途が立つ事業であったためもったいない結末となってしまった。

もったいない廃業の例もあります。

誰かに継がせたり、売却することが十分できたとはずの事業なのに、社長の判断だけであっさり廃業させてしまった例です。

望み通り社長を辞めることができたものの、もっとうまい終わらせ方があったはずです。

残念な着地です。



どんな会社の着地方法があるのか?

失敗例を見てきましたが、社長は会社の承継や存続の問題を担います。

私はこれらを総称して『会社の着地』と呼んでいます。

上手く着地するために、まずどんなパターンがあるのかを確認してみましょう。


廃業、承継、M&A・・・「会社の着地」

会社の着地は、おもに4つに分類されます。

社長が自主的におわらせるのか、強制的におわらせるのか。

また、会社が残るのか、残らないのかで分けてみます。



自主的に会社を誰かに継がせる「承継」

図をご覧ください。

左上は、社長が自主的に会社を着地をさせて、かつ会社が残るパターンです。

こちらは誰かに会社を継がせる結末となります。


さらに継ぐ相手が誰かによって、事業承継やM&Aなどの差が生じます。

身内や会社の誰かが継ぐ場合は狭義の事業承継となります。

社外に継がせる場合はM&Aや、継業と呼ばれるものとなります。

いずれにせよ、誰かが会社を継ぎ、社長であるあなたが会社をやめても、事業は継続されていきます。


この左上のゾーンが、常識的で当たり前の着地だと思っている方は、世の中にたくさんいらっしゃることでしょう。

理想的なゴールだと感じる面もあります。

しかし実際のところ、とてもそうとは言い切れません。

願ったところでこのゾーンに着地させられない会社は、今、とても多いのです。


社長が強制的に退出させられる「倒産」

続いて、左下に目を向けます。

たとえば、社長が急に倒れ経営不能に陥る場合があります。

しかし、社長は不在となりましたが、会社まで一緒に消滅するわけではありません。

そこで誰か別の人間が新しい社長となり、経営を続け行きます。

こうした、社長は強制的に辞めさせられることになったけれども、会社は残っているパターンの着地が左下のゾーンです。

社長をやっていた父親が急死し、息子や番頭さんが社長に就任した場合などが典型例でしょう。


社長が自らの手で会社をたたむ、「廃業」

右上のゾーンは、廃業です。

社長が自らの意思で、自主的に会社をたたむ結末です。

大廃業時代などという言葉が生まれました。

たしかに小さな会社では、今一番多い着地パターンかもしれません。


追い込まれて潰される、「倒産」

ラストの右下は、倒産です。

会社が無くなるという意味では、先ほどの廃業と同じですが、自主的かどうかが違います。

こちらの場合、追い込まれて強制的に会社が潰されます。

会社が無くなるという結果だけを見ると、廃業も倒産も、差を感じないかもしれません。

しかし、自主的に会社をたたむということは主導権を持って進められるということです。

逆に、主導権がないということは、思うように話を進められないことを意味します。

倒産では、かゆいところに手を届かせるようなことができません。


なお、廃業と倒産には明確な定義があるわけではありません。

現実では、限りなく倒産に近い廃業もあれば、自主的かつ状況をコントロールして倒産させられる場合もあります。

ニュアンスの差を感じ取っていただければ幸いです。


みずから会社を辞めなければ、死か倒産

会社の着地を4つに分類したものを見てきました。

ここで改めて確認したいことは、自主的に終わらせなけらば、「社長みずからの死」か「会社の倒産」という結末しかなくなる、ということです。

混乱と不幸を伴う終末です。

自分で社長を辞めない場合に引き起こされることを意味します。


どんな優れた社長でも、命には限りがあります。

また、社長の命が尽きないとしても、先に会社の命運が尽きることがあります。

会社命運や個人の人生を、上手くまとめるためには、自主的かつ主導権を持って会社の着地に取り組むことが求められます。

そうすることで、「本当は社長を辞めたいと思っているのに、辞めることができない」というドツボを回避することもできるようになります。

社長引退・辞任に挑む3つのポイント

ポイント① 会社より『社長の個人の人生』から

会社の着地を成功させるポイントを考えていきましょう。


まず最初のポイントは、「社長の人生を軸にする」ということです。

「なんのこと?」という感じかもしれません。

奥村の持論をお伝えさせていただきます。


ほとんどの社長は「会社をどうするか?」という視点でモノを考えます。

しかし、これでは答えがなかなか出ません。

また常に障害や問題があるものです。

会社に合わせてしまうと障害に足をとられて前に進めなくなってしまします。


たとえば、お金は十分にあるけど、目下赤字が続いている会社があるとします。

赤字の事業は撤退するのが資本主義の原理原則です。

でも、会社にはお金があるので、すぐに会社をたたまなければならない切迫性もありません。


こんな会社において、会社の状況を見て答え出そうとしても難しいものがあります。

「従業員や顧客のことを考えると、会社をたたむのも気が引ける」

「でも、だからと言って熱意をもって事業を続けたいかと言われれば、そんなこともなく・・・」

このような堂々巡りが繰り返されることになるのです。

一方、判断の軸を自分に置いたらどうでしょうか。

「俺はこういうふうに生きていくから、会社のことは○○にする」

「私の価値観からすれば、会社の着地にこんな答えを出す」

自分の軸がしっかりすれば、おのずと答えが出てくるのです。


中小企業の場合、社長の一存ですべてが決まります。

社長を軸にして答えを導くのは、ある意味当たり前のことではなないでしょうか。


あなたの価値観はどのようなもので、自分はどうやって生きてべきかをまず固めてください。

そのうえで「どうやって社長をやめるか?」を考えてください。

会社をどう着地させるかは、社長側から観れば「いかに社長を辞めるか」という問題だからです。


自分から出発すれば、取り組みにエンジンがかかるというメリットもあります。

逆に自分の意思を無視して、会社のことだけに取り組もうとしたらエネルギーが沸きません。

実務の現場では、事業承継等の取り組みが進んだところで、急に社長がちゃぶ台を返すことがあります。

社長がおもしろくない思いをしたり、やる気が無くなってしまうのでしょう。


口では「後継者に会社を継がせる」と言いながら、いつまでたっても社長のイスから退かないこともあります。

自分の思いにフタをして進めようとして起きる弊害でしょう。

一人の人間として「自分がどう生きるか」から出発すれば、こんなトラブルも起きないはずなのです。



ポイント② 廃業視点を持つ

会社の着地に対して、廃業をベースとすることが次のポイントです。

廃業とは、自主的な着地で、かつ、会社が残らないパターンでしたね。


廃業が着地のベースだと言うと、驚かれたり、否定的な意見を言われることがあります。

しかし、これまで数多の着地支援をしてきた経験から導き出された考え方です。



廃業というものは、自分だけで実行できる着地方法です。

事業承継やM&Aなどは、相手方あっての着地で、こちらがいくら願ってもできない時はできません。

また、倒産や社長の死亡といった強制終了は避けたいというのは、すでに述べたところです。


ならば、単独で実行できる廃業を基本とし、少なくともうまく廃業できることを目指して着地計画を進めていくべきです。


また「もし今廃業したら、どうなるか?」を意識することが、ものさしとして役に立ちます。

廃業したときにお金が残るか、それとも借金が残るか。

これをモニタリングし続けることで、間違いを犯さないで済むようになるのです。

社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』、会社を継がせますか?廃業しますか?



廃業視点の詳細や、使い方は、拙著『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』で詳しく解説しています。

是非、一度手に取ってお読みください。

ポイント③ 早いタイミングから取り組む

最後にあげるのポイントは、「早いタイミングから取り組むこと」です。

年齢が若いときから準備を進めた社長ほど、上手に着地できる可能性が高まります。


つきなみな助言となります。

「そんなことは分かっている」と言われてしまうかもしれません。

しかし、実際のところ、うまくできていないわけで・・・

どうしてでしょうか。




ひとつに、そもそも「おわり」というものを、まったく考えていないことがあげられます。


自分が社長をやめるときがくること。

会社が終えんを迎える可能性があること。

これらを意識しないかぎり、対策や取り組みがスタートすることはありません。



世の中には、こうした当たり前の事実を受け入れない人がいます。

見たいものしか見ない、というか・・・

いつかおわりが来るという現実を受け入れることで、ようやくスタートラインに立てるのです。




続いて「早いタイミング」って、どれくらいなのか?の問題があります。


社長さんと私のような専門家では、この時間感覚に大きな隔たりがあります。

社長は「まだまだ間に合うだろう」と思っていても、実際はすでに黄色信号だったり、場合によってはもう赤信号が灯ってしまっていたりします。



具体的な期間をあげれば、社長を辞めようと考えるタイミングの5年前からは着地の準備をはじめていただきたいところです。

70歳で辞めるつもりならば、65歳のときには動き始めるべきです。

もっと早くてもいいくらいです。

ちなみに、希望する自身の引退年齢については、「70歳くらい」と答える方が最も多いところです。


誰かを次の社長にするにも、その人が育つためには時間が必要です。

また、節税のために取り組む場合にも、時間は味方をしてくれます。



時間がなく、切羽詰まったケースの失敗としてよくあるのは、役員借入や自宅の問題です。

「自分で会社に貸した金だけは回収したい」

「身内から会社が借りた金は、先に返してあげたい」

借金で首が回らなくなりそうな会社で、こんな社長の希望をよく聞きます。

しかし、この期に及んでそんなことはできません。

債権者は平等に扱うという原則に違反することになり、裁判手続き等で重大な支障が生る可能性があります。

他の債権者が、自分に返済をしないのに他者に返済されることを、黙って見逃すわけはありません。

でも時間さえあれば、これらの問題を問題を生じさせないで解消させることができることだってあります。



自宅等でも同様です。

土壇場になって、銀行に自宅を取られないように、名義を変えようとする人がいます。

しかしもう時すでに遅しなのです。

もし自宅等をのこしたいのならば、前々から対策を打つ必要があります。



はやくから会社の着地を意識し、取り組んでいくことで、より良い状況へ持って行くことができるのです。

「引退なんてNO!」生涯現役を目指すならば

「自ら会社を着地させて引退していくならば」という条件でここまで書いてきました。

しかし、「俺は生涯現役だから、引退なんて考える気はない」と、社長を辞める気はないという方もいるかもしれません。


私としては、こんなご本人の意向を否定するつもりは毛頭ありません。

あくまで各人それぞれの生き方です。

すでに論じたように、私は、会社より個人の生き方を優先してもらいたいという思考パターンを持つ人間です。

本心から望むならば、どうぞ現役主義を貫いてください。


ただし、生涯現役だからといって、何の備えもしないことまで推奨するわけではありません。


今は元気な社長でも、長い目で見たら年齢的な問題で、どうしても体力や判断力は衰えていきます。

自身の相続発生など、いつか必ずおわりがやってきます。

この来るべき事態に備えて、手を打っておくことは必要ではないでしょうか。

「俺は生涯現役だから、会社の着地の準備なんていらない」

現実を、自分が見たいようにしか見ていないと言わざるを得ません。


おわりに

最後までお読みいただきありがとうございました。

今回の解説では考え方の話が多くなりました。

しかし、それこそが最も大切ですし、基本となるところです。


自身の身の引き方に戸惑い、上手に社長を辞められないケースでは、往々にして社長に“ブレない考え方”が存在していません。

その一方で、枝葉の税金や法律、手続きといったところばかりを目を奪われてしまっています。

やはり、土台(=考え方)がしっかりしていかなければ、何事も成就させられないわけですね。

この記事が中小企業のオーナー社長さんたちの出処進退のお役に立てばうれしいかぎりです。

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰

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