奥村聡(事業承継デザイナー)
NHKスペシャルで「会社のおくりびと」として取り上げられた奥村聡が現場で培った経験を元に話します

負債が膨れた会社を後継者に事業承継していいの?

 

事業承継のタイミングを迎えている会社の状況は千差万別。

潤沢な資産があるとこもあれば、反対に銀行借入などをはじめとした負債が大きく膨れている場合もあります。

中小零細企業をめぐる景気を考えれば、後者の方の悩みの方が多いのかもしれません。

事業承継というと相続税だ株価だという話になりがちですが、それは一部の潤った会社の話なのです。

 

負債が膨れた会社を承継させる愚

さて、この負債が大きくなった会社の事業承継はどうしたらいいでしょうか。

この部分が気がかりで、子供や社員に継げないでいる会社があるかもしれません。

もちろん、無理に継がせるよりは立ち止まっていただいているほうがずっといいでしょう。

負債が膨れた会社を状況を考えないでうかつに継いだケース。。。

社長の急死のドタバタである人が新しい社長として担がれてしまったケース。。。

社長であった親の言いなりで、強制的に子供が継がされたケース。。。

いろんなケースがありました。

当然、継いでから後継者は苦労します。

継ぐや否や経営破たんしたようなケースすらありました。

「先代の作った借金を若き後継者が苦労しつつ返済した」なんて事業承継の美談がもてはやされます。

日本人はこんな話が大好きです。

しかし、そんな結果が上手くいったのは、ほんの一握りのケースではないでしょうか。

僕に言わせれば、そもそもそんな会社の継ぎ方をしてはダメなのです。

 

 

一部でもキラリと光る部分があるなら

ならば負債が膨れ上がった会社はどうすればいいのか。

まず考えるべきは「そもそも誰かが継いでまでのこす価値があるのか」ということろでしょう。

辛辣な言い方をすれば、世の中にはもう継ぐ価値がない会社だってあるのです。

時代や環境の変化に取り残されていたり・・・と。

そんな会社までリスクを負って引き継ぐことに意味はありません。

会社をたたみ、後片付けをしたほうがいいでしょう。

 

この継ぐ価値がないと判断する際のものさしについては、言っておきたいことがあります。

会社全体としての良し悪しを考慮するのではありません。

一部分でもよい部分があればいいのです。

たとえ負債が大きくなりすぎてもきらりと光る部分があれば、残す価値があるし、残せる可能性もあると思います。

販路、技術、個客、商品、ブランド、不動産、資産・・・など。

会社にある資源を棚卸しながら、ピンとくるものに気づけるようアンテナを張っておいてください。

残し方は後ほどお話しましょう。

 

 

分社で負債が膨れた会社を残す

会社では負債が積みあがっている。

しかし、なくすには惜しい部分もある。

この前提で、事業承継をどうしていけばいいのかを考えてみましょう。

 

 

まず、債権者との折衝を経て、借金をカットしてもらうという方法が思い浮かびます。

しかし、先方はこちらの都合に合わせてくれません。

債権者主導の再生というのは難しいというのが僕の実感です。

 

民事再生法などを使って借金をカットするという方法もあります。

これならば債務者側がある程度イニシアチブを握れます。

しかし、手続きにはコストがかかるし、信用不安も引き起こしやすい手法です。

 

結局小さな会社の場合に向いているのは、いわゆる『第二会社方式』というものです。

簡単に言えば、会社を良い部分と悪い部分の二つに分け、良い方の会社だけでも生き残らせましょうという手法です。

膨れ上がった負債は、悪い方の会社に残しておくことになるでしょう。

事業承継の場面ならば、後継者が良い方の会社だけを承継すればいいのです。

負債が積みあがったまま継がせるよりも、ずっと成功率は高くなるはずです。

「そんな都合の良い話があるのか」と訝しむ方もいらっしゃるかもしれませんが、できるのです。

実際に何件もやってきています。

 

後継者として良い方の会社を継ぐことになる方への注意喚起があります。

負債から逃れただけでは、いずれ会社はまたダメになる、ということです。

それはそうですよね。

社内の体質が悪かったり、稼げない商品やサービスを販売していたり・・・悪くなった原因をそのままにしていては、いずれまた財務内容は悪化していきます。

あくまで第二会社方式は浮上のチャンスでしかありません。

そのチャンスを使って、いかに世の中から必要とされる事業を築けるかが勝負です。

私は『今ある会社をリノベーションして起業する』を書いて伝えたかったのは、そのことと、そのやり方です。

 

 

残った会社と負債はどうする?

第二会社方式の意味はお分かりいただけたでしょうか。

鋭い方は「ならば、残った悪い方の会社と負債はどうするのか」と疑問に思われたかもしれません。

会社のほうは、清算や破産で終わらせてしまってもいいですし、条件がそろえば営業を続けていくこともできなくはありません。

ただやはり負債の支払いができなくなる場合が多いのでしょう。

 

すると、主債務者である会社が支払えないのだから、社長が連帯保証をしている部分については個人に請求がなされます。

この際に取られるような財産が無ければ、もう開き直ってもいいわけです。

「払えるもんなんてなにもないぞ」と。

あとは好みの問題でしょうか。

破産などできっちり法的に処理をしてしまうのが一つ目の選択肢です。

債権者との関係を終わらせたい方はこちらがいいでしょう。

 

ほうひとつの選択肢は、月々の分割弁済に持ち込むことです。

この際、債権者主導で話をするのでありません。

あくまで払えるお金はない。

ひいては、債権者が強制的に奪えるお金はないという前提からスタートです。

そのうえで、月々無理なく支払える額だけを合意のうえで払うのです。

5000万円の借金が残っていても、月々1万円しか払っていない方もいます。

年齢を考えるとこのペースでは払いきれないのですが、そもそも完済できるとも思っていません。

将来のいつか社長がお亡くなりになったときに、一緒に負債もお墓にもっていってもらう算段です。

 

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負債が膨れた会社の事業承継のお話をしてきました。

知恵と工夫と勇気によって、いい形で後継者にバトンをつなぐことができます。

一方、下手なやり方をすると痛いしっぺ返しを受けることもあります。

実行する場合は専門家と相談しながらやってください。

 

プロフィール

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は850社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられたコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?
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