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事業承継税制のメリットと注意点は?

目次

事業承継税制が新しくなります

事業承継を専門的にあつかっているため、僕のところにその導入について質問が寄せられることがそれなりにあります。
また、税理士さんと組んで一緒にスキームを作ることもあれば、社長のブレインとして他の専門家が書いた企画の採用可否を検討することも。
そのような立場から、新しくなった事業承継税制を考察してみました。

自社株の相続税問題の所在

そもそも株価対策や事業承継における相続税の何が問題になのかピンと来ていないという方のために、一度整理をしておきます。
中小零細企業の場合、社長が自社株式のほとんどを有している場合が大半です。
社長がお亡くなりになれば、その株式は家族に相続されます。
その際、会社の財務状況が優良だと、株式が高く評価されることがあります。
株式が高く評価されると結果的に相続税が増えてしまいます。

対象が自社株式だという点も厄介です。
不動産や上場企業の株式ならばいざとなれば換金もできます。
しかし、小さな会社の株式には流通性がほぼありません。
時には、換金できないものを手にいれるために、多額の税金を払うという酷な結果を強いられることもあります。

自社株式の株価が低くなれば、問題は解消されます。
相続税は減るし、生前のうちに後継者に株式を移転させることだってやりやすくなります。
その為にあえて会社の利益を減らしたり、財務内容を悪くするといったスキームが使われることもありました。
本末転倒と言ってしまえばそれまでですが・・・

新しくなった事業承継税制は使えるのか?

これまでの事業承継税制の利用は、ほぼ考えられませんでした。
事業承継の節税手段としてまったく利用できない手法のとして、頭の中から切り捨てていたぐらいです。
しかし、2018年の改正を受け、使える場面は増えるのではないかと感じています。
会社の状況によっては有効でしょう。

とはいえ、世の中小企業の多くの会社にとっては、あまり関係のない改正だったりもします。
この事業承継税制は、相続税の対策を立てなければいけないぐらい株が高く評価されてしまう会社でなければ活用することはありません。
負債に比べてかなり資産が大きい場合などがこれにあたります。
事業承継をひかえている会社で、特段株価対策が必要となる会社は全体から見ればそんなに多くありません。
一部の専門家の頭では「事業承継=株価対策&相続税」になっていますが、その認識は現実とのギャップがあります。

また、株価対策が必要であっても、そんなに大きくない会社(年商1億円ぐらい?)ならば、従来の株価の引き下げ策などで十分だとも考えます。
退職金や生命保険を活用したり、と。
手続の手間などを考慮したら、事業承継税制の利用は避けておきたいところでしょう。
このような理由で、事業承継税制を使う必要がある会社は少数派です。
ここに該当しない会社はこの先を読む必要はありません。

事業承継税制は廃業増加を回避するのか

僕のところには政策としてどうなのかという質問もたまに寄せられます。
横道にそれますが、政策としての事業承継税制の意味も考えてみます。
その質問の意図は、現在の事業承継問題を改善できるのか。
ひいては後継者不在による廃業増加の問題に対する効果があるのかを聞くことでしょう。

この点について僕としては、ほぼ効果なし、と考えています。

事業承継税制は確かに使いやすくなりました。
しかし、この制度を使うのは、それなりの規模の会社であったり、財務内容が良い会社になることはすでに述べました。

これらの会社において、はたして「後継者がいないから廃業する」というケースがどれほどあるでしょうか。
状況がいい会社なのだから「後継者になれるならならせて欲しい」というニーズは多いはずです。

また、仮に適任者がいなくてもМ&Aで売却できる可能性は高いところでしょう。
事業承継税制が改正されなくても、そもそも廃業することはなかった会社だということです。

廃業予備軍に対して歩み寄る制度になっていない時点で、正直、廃業増加を食い止める効果はほぼないと思います。
むしろ、状況の良い会社をさらに後押しする制度のため、優良な会社とそうでない会社の二極化をさらに促進する可能性も感じます。

事業承継税制の中味

事業承継税制にはどんなメリットがあるか?

前置きが長くなりましたが、制度の中味を見ていきましょう。

事業承継税制は、株価が高いことによる相続税問題を解消することを狙って作られました。
事業承継問題を背景に、中小企業が次代に事業をバトンタッチしやすくするため、特例を使えば相続税を減らしてあげますよ、という趣旨です。
2018年からは、事業承継計画を各都道府県に提出することで、自社株式の評価を100%オフになる可能性ができました。

例えば通常ならば10億円と評価された株式が、0円として扱われるわけです。
すると相続税だってグイっと下がります。
場合によっては、何千万、何億もの相続税が削減されることもあり得えるかもしれません。
自社株式に対する相続税がまるまるかからなくなるということで、会社によってはとても大きなメリットを享受できそうです。

事業承継税制活用の詳細

メリットが大きそうな事業承継税制ですが、それなりの条件や義務も課せられます。
なお、この先の話は分かりやすくするため簡単にしている面があります。
導入の際は、税理士さんと相談しながら慎重に進めてください。

【1】事業承継税制が使える条件
【2】5年間の事業継続の条件
【3】5年経過から免除になるための条件

事業承継税制が使える条件

事業承継税制を利用するための前提条件です。

・中小企業であること

資本金基準、または従業員数の基準のいずれかで、中小企業に該当していることが条件となります。
・筆頭株主である先代社長から、株式と経営権を受け継ぐこと
この点、先代と後継者の要件につき、今回の改正で緩和されましたが、めったにないケースでしょう。

・適用期限

2018年4月から2023年3月までの5年間の間に事業承継計画を各都道府県に提出する必要があります。

・管理会社ではないこと

資産管理のためだけの会社は使えません。例えば、不動産を管理するための法人の場合です。ただし、リアルな営業所があって、親族外の雇用があるような場合は管理会社とはみなされません。

5年間の事業継続の条件

事業承継税制が適用されるためには、5年間の事業継続が必要とされています。
事業継続の定義は下記となります。
これに該当しなくなるときは、本来支払うべきだった相続税に利息を加えて納めなければいけなくなります。

①社長であること
②株式の継続保有
③80%以上の従業員の継続雇

今回の改正による要件緩和は?

事業承継税制は前からありましたが、ほとんど使われることはありませんでした。
利用の最大の障害となっていたのが、「株式の継続保有」と「従業員の継続雇用」の要件のためでしょう。
たとえば、とても良い条件でМ&Aによる会社買収の話を持ちかけられても、株式を売却すると「株式の継続保有」の要件にひっかかります。

また、急な不況などで人員を削減したくなっても、80%の従業員雇用をキープしなければいけませんでした。
私が知る会社でも、このあたりを危惧して事業承継税制の利用を見送ったケースがあります。

事業承継税制の利用を妨げていたこれらの要件につき、今回の税制改正で救済策が準備されました。
たとえば、経営状況の悪化等の正当な理由があれば、8割雇用を満たせなくなっても直ちに打ち切られることがなくなったり、と。
このことで使い勝手が大幅に改善され、利用を検討する余地がある制度になったと思っています。

免除になるための条件

免除までの最後の条件です。
ここまではあくまで、納税の猶予でした。
「相続税を本来払わなければいけないけれど、支払いを猶予してあげますよ」というレベルです。
これを、相続税を納める必要まで免除してもらうにはどうしたらいいでしょうか。

これは利用から5年経過後も株式を継続保有ことです。
最終的には、事業承継税制で株式を受け継いだ社長が亡くなったときか、同人がさらに次の後継者に株式を引き継いだときに免除となるようです。
こう考えると、免除まではなかなか長い話になってしまうことが分かります。

結局のところ、事業承継税制はオススメなの?

いろいろと書いてきましたが、結局のところ事業承継税制はどうなのでしょうか。
この点については、僕の完全なる主観であり、また適用の可否は対象となる会社によって大きく異なります。
その上であえて評価するなら、できるだけ使わない方がいいと思っています。

利用には手間がかかります。
それは費用やエネルギーが必要となることを意味します。
また、免除まで勝ち取ろうとすれば長い時間が必要です。それまで、特例利用のために動いてくれていた税理士がずっと面倒を観てくれるかも分かりません。
かなり緩和されたとはいえ、制度の利用により、将来の自由が制限される面は依然として残ります。

『技に走る者は技で足元をすくわれるもの』だと思っています。
事業承継税制はあくまで本来納めるべき税金の猶予であることも忘れたくありません。
ならば、前々から事業承継を見越した準備をすすめ、このような制度を使わなくても乗り越えられるようにしておくことこそ王道だと思います。
安易な利用推進に警鐘を鳴らさせてください。

それでも事業承継税制を導入したいならば

事業承継税制の利用は、あくまで手段でしかない点は忘れて欲しくありません。
本来の目的やゴールは何でしょうか?
広い視野で事業承継を見渡せば、税金問題は事業承継の一部の小さな話だったりすることがあります。
ところが、税金問題で目を奪われと、他の大切なところを見落としてしまうことはありがちなパターンです。
手段が目的化してしまっているのですね。

手段の用い方には工夫も必要です。
自分たちに合うように上手に使わなければいけません。

言ってしまえば税理士等の専門家だって手段です。
専門家は自分の専門分野のことしか見えていない場合が多く、その分野を最適化させることが別のところを悪化させるケースがあります。
専門家だからと言いなりになってはいけません。
力を引き出しつつ、上手に活用できなければいけません。

こういった意味で、事業承継、さらには会社経営から個人の相続といった全体を見渡せるディレクターのような存在は求められるのでしょう。

事業承継のご相談はお気軽に

事業承継デザイナーの奥村聡は、相続問題だけでなく、会社経営から人間関係などまで横断した事業承継支援を行っています。
事業承継に関するご相談は何でもお気軽にお寄せください。

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この記事を書いた人

奥村 聡(おくむら さとし)
事業承継デザイナー
これまで関わった会社は1000社以上。廃業、承継、売却・・・と、中小企業の社長に「おわらせ方」を指導してきました。NHKスペシャル大廃業時代で「会社のおくりびと」として取り上げられた神戸に住むコンサルタントです。
最新著書『社長、会社を継がせますか?廃業しますか?』
ゴールを見すえる社長のための会【着地戦略会】主宰

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